「転職で給与交渉はして良いの?」
「もらえるならもっと欲しいけどコツはある?」
結論として、転職時の給与交渉は可能ですが、やり方を間違えると失敗するだけでなく心象を悪くしてしまうので、慎重に進める必要があります。
本記事は、上場企業管理職の筆者が、中途採用を行う企業側目線と、過去二度の転職をした経験を踏まえて「年収交渉で失敗しない方法」を解説したものです。
給与交渉して良いのは市場価値が高い人だけ
あなたがスタッフ層なら、給与交渉はしないことをおすすめします。うまくやれば問題はないですが、心象が悪くなるリスクがあるので、下記に該当する方だけやりましょう。
- あなたの市場価値が高い(年収600万円〜)
- 一般的な競合他社より、提示年収が低い
- 採用企業が不人気で人手不足である
上記に該当していないのに年収交渉をすると「自身の市場価値を客観視できないのか」「図々しく要求するタイプか」とシンプルに嫌われる可能性があります。
入社して活躍したら給与はあがるので、まずは業績に貢献してください。
問題となりにくい給与交渉の理由とタイミング
給与交渉で伝えてもネガティブになりにくい理由は下記2点です。
- 理由①現在の年収から下がってしまうため
→選考の最初の方で伝えるべき - 理由②競合他社がより高い金額を提示してくれているため
→選考の終盤で伝えるべき
上記の理由を使うことをおすすめします。もちろん「どうしてもこれくらいの金額が必要だから」という理由があれば構いませんが、同情を誘う理由だとリスクもあるので注意してください。
理由①現在の年収から下がってしまうため
現在の年収から下がってしまうので同等水準にあげてほしい、というのが一番納得されやすい理由です。特に、スカウトをもらったときにありがちな交渉理由ですね。
交渉タイミングは「選考前」がベスト
選考初期に伝えるようにしてください。なぜなら中途採用の面接は「この候補者に年収XXX万円相当の価値があるかどうか」を確認するものなので、選考終盤だと不誠実に捉えられる可能性があるからです。
もちろん、仕事内容がそう変わらず活躍イメージが湧くのであれば問題とならないもありますが、下記のような場合だと揉めます。
- 交渉額が100万円以上
→社内での等級が変わるので - 未経験職種への転職(即戦力ではない)
→即戦力でないのに同じ金額を出すわけがない
上記のようなケースにもかかわらず、選考終盤で年収が足りないことを伝えると「え、最初に言ってくれ、話が違うじゃん、、、」となるので注意してください。
理由②競合他社がより高い金額を提示してくれているため
給与交渉で一番自然な理由が「内定を獲得した競合が、より高いオファーを出してくれている」というものです。市場価値の高い方に多いですね。
交渉タイミングは「内定後の承諾前」がベスト
給与交渉のタイミングは「内定が出ていて承諾する前」がベストです。なぜなら、内定前に交渉をすると選考そのものが白紙になるケースがあるからです。
伝え方のポイント
「高い給与を出した競合に惹かれている」と伝えるだけだと「じゃあそっち行けばいいじゃないですか?」と心象が悪化するので、下記のポイントを押さえましょう。
- 提示年収以外は、御社のほうが良い
- 正直揺れているので、検討時間が欲しい
上記のポイントを押さえれば、企業側としても悩む理由に納得でき「この機会を逃したくないので、他社より良い条件を出せないか」と検討してくれるようになります。
ポイントは「年収を上げて欲しい」と直接的に伝えるのではなく、「ライバルが自分を高く評価してくれているので悩んでしまっている」と間接的に伝えることです。
給与交渉の注意点
内定承諾前であれば給与交渉は可能です。しかし、交渉の進め方を間違えると「ただお金が欲しいだけ?」と思われてしまい、心象が悪くなるので注意が必要です。
- 注意1.面接の逆質問で給与の話からしない
- 注意2.業界相場とかけ離れた年収を希望しない
- 注意3.クッションを添えず一方的に伝えない
- 注意4.内定承諾後に給与交渉をしない
- 注意5.給与交渉の理由に「年齢」を使う
- 注意6.転職エージェントに丸投げしない
注意1.面接の逆質問で給与の話からしない
一次面接の逆質問で給与交渉をするのはやめましょう。まだお互いの理解が進んでいない段階で「もっとお金ください」と伝えてしまうと、カネ目的で転職をしようとしていると思われます。相当優秀でない限り、カネ目的で仕事を選ぶ人と一緒に働きたいと思う方はいません。
特に、初対面の第一印象は、今後一生の評価を左右してしまうとされているので(心理学でいう初頭効果)、なるべく給与の話題は避け、綺麗事を中心に聞くことをおすすめします。(→逆質問の例)
「企業側からオファーされた年収」が「現在の年収」より低い場合は、問題となりません。
注意2.業界相場とかけ離れた年収を希望しない
業界の相場をかけ離れた年収額の希望はやめましょう。絶対に失敗します。実際に、事業部側としては「自分の市場価値を差し置いて何言ってんだ!?」とびっくりします。
なにより、現実的に難しいことを理解できずに希望を一方的に伝えてしまう拙い行動に、ビジネスパーソンとしての能力(自己認知)を疑ってしまいます。その結果、内定通知を出す前に「採用は見送ろう」となるのです。
そのため、あなたの市場価値に自信がないのであれば、給与交渉はしない方が良いです。特に、第二新卒やスキル面で成熟していない場合は絶対にやめましょう。
注意3.クッションを添えず一方的に伝えない
給料交渉は非常に繊細な話題です。にもかかわらず、以下のような”クッション言葉”を添えた「受け手目線でのコミュニケーション」をできないようでは、心象は悪化します。
- 大変、差し出がましいお願いになりますが、
- 貴社規定から逸脱しない形で構いませんので、
- 給与額をご相談することは難しいでしょうか
上記のように、クッション言葉を添えてやんわりと伝える品位が求められます。また、表面上の言い方だけではなく、企業側が納得できるような根拠(次章で解説)を提示することが重要です。
注意4.内定承諾後に給与交渉をしない
内定を承諾してしまったらそれ以上元には戻れないのが基本です。対等な立場での”交渉”はできなくなる(”お願い”扱い)ので、適当な理由をつけて断られます。
また、理由次第ですが、交渉が成立したあとに「やっぱりもっとお金が欲しい」と伝えるのはおすすめしません。一度決めたのに筋を通さないのは不誠実です。
注意5.給与交渉の理由に「年齢」を使わない
給与交渉の理由に年齢を使っては行けません。ほぼ確実に失敗します。当然ですが、企業は「年齢」にお金を払いません。
このように間違えた交渉をしてしまった求職者の評価は、入社前から悪化することになります。「不可です。条件を飲めないなら見送ってください。」と言われます。
注意6.転職エージェントに丸投げしてはいけない
年収交渉を転職エージェントに丸投げするのは危険です。私は上場企業管理職として多くの転職エージェントとやり取りをしていますが、ひどい年収交渉をしてくる方が多くいます。
それこそ「ご本人が、年齢も年齢なので年収600万円を希望しています。いかがでしょう?」とそのまま伝書鳩的に伝えてくるケースが多いからです。この交渉がうまくいくはずがありません。
転職エージェントに給与交渉をさせる場合は「他社からもっと良い条件で内定をもらっていて悩んでいるので時間が欲しい」と、エージェントに伝えるのがベストです。
そうするとエージェントは企業側に「◯◯さんが別経由で受けた会社と悩んでいるそうです。給与で負けているので同じ水準に上げてはどうでしょう」と自分から交渉してくれます。
給与交渉で心象を悪くしないためのポイント
給与交渉で心象を悪くしないためのポイントを紹介していきます。お互い信用がない中の交渉になるので、基本的に誠実性を疑われないようにすることが重要です。
- 希望額があるなら最初から伝える
- 最初に希望年収を聞かれて低く言わない
希望額があるなら最初から伝える
まず、希望する金額があるなら書類選考の段階で伝えるようにしてください。選考が進むまでは隠していて、あとから条件を追加するのは、不誠実です。
おそらく一次面接で確認されるので、企業側が希望するであろう返答(貴社規定に従います)を伝えるだけではなく、正直に伝えるようにしましょう。
そうすることで、最初から「希望年収でオファーが出せるか否か」という観点で面接をしてもらえるので、お互いに時間を無駄にしなくて済みます。
最初に希望年収を聞かれて低く言わない
日本人は謙虚さを美徳と考える方が多いので、現職で年収1,000万円以上あり、本音ではそれ以上欲しくても、建前で「年収800万円以上」と下げて伝えることがあります。ただ、おすすめしません。
なぜなら、ほとんどの企業が希望金額ギリギリの800万円でオファーを出してくることになるので、内定後に給与交渉をするのが面倒だからです。
さらに、もともと「800万円を希望」と言っていた相手が、内定を獲得した途端に意見を変えると、企業側も違和感を感じるものです。
また、時間の無駄でもあります。面接練習をしたいのであればナシでもありませんが、年収1,000万円までしか出せない企業の面接に進むのは、お互いに時間がもったいないです。
転職時のオファー額を決める要素
中途採用でのオファー年収を決める要素を紐解くことで、転職で年収をあげるための方法が見えてきます。提示年収は以下の要素で決まるので見ていきましょう。
- 自社給与テーブルから決める
- 競合企業のオファー額以上にする
- 候補者の前職給与を参考にする(前職考慮)
- 採用して得られる利益を考える(原価的な考え方)
①自社給与テーブルから決める
中途採用のオファー金額を決める上で、一番主流な決め方なのが「自社の相場(給与テーブル)」によって決めるというものです。給与の決め方としては以下2形式のいずれかが一般的です。
- 年功序列型
→年齢や在籍期間に応じて給料が決まる - ミッショングレード制
→任される役割に応じて給料が決まる
20代〜30代といった若い世代が大手企業で高年収を狙う場合、前者の年功序列型だと難しいので、後者のミッショングレード制を導入している実力主義の会社を狙いましょう。
若くして高年収を狙うなら給与テーブルは確認必須
多くの企業において、等級別の給与は、あらかじめ社内で定められた給与テーブルに則って決まるので、転職前に必ずチェックするようにしてください。
それこそ「部長になっても年収600万円」の企業にいるようでは、どう頑張って出世しても、高年収にはなれないからです。
<例:給与テーブル>
等級 | 役職 | 給与ベース |
5 | 役員 | 1,200万円~ |
4 | 部長 | 900~1,200万円 |
3 | 課長・マネージャー | 700~900万円 |
2 | 主任・リーダー | 500~700万円 |
1 | 一般スタッフ | 300~500万円 |
仮に、上記のような給与テーブルの場合、年収800万円以上もらうためには「等級3. 課長職(700~900万円)」になれば良いので、若くとも手が届く範疇であることがわかります。
管理職を狙うならメンバーの年齢が重要
また、管理職(課長や部長クラス)を狙うなら、部下となるメンバー層の年齢は重要です。なぜなら、年下が上司となることを嫌がるのが一般的だからです。
例えば、メンバー層が30代ばかりで、30代後半~40代でようやく管理職がで始めるような大手企業では、20代が管理職になることはほぼ不可能です。
一方で、20代メンバーが中心のベンチャー企業であれば、管理職になるために年齢を気にする必要はほとんどなくなるでしょう。
企業全体の”平均”は参考にならないので注意!
余談ですが、転職後の給与イメージをつけるために、企業全体の平均(年収・年齢)を見る方が多いですが、参考とならないケースがあるので注意しましょう。
平均はあくまで平均なので、最初から管理職以上の求人票を見るか、転職エージェントや人事を通して下記情報を得ることをおすすめします。
- 給与テーブル(等級と報酬体系)
- メンバーと管理職の年齢分布
②競合企業のオファー額以上にする
オファー年収を決める要素として「業界や競合他社の給与水準」の理解も欠かせません。なぜならスキルや経験の”市場価値”で年収が決まるからです。
それこそ、どの企業も高い年収でオファーを提示しているのに、低い年収で募集を出しているような企業には、優秀な人材が集まらないからです。
特に、内定後に「競合企業から高いオファー金額で内定をもらっていること」を伝えることで、オークションのようにオファー金額を引き上げることができる(カウンターオファー)ので活用してください。
③転職前の給与と比較(前職考慮)
転職後の給与を決める上では「転職前の給与」も参考になる要素です。実際、あなたの能力が十分高いと判断されれば、前職の年収を下回らない金額でオファーを提示してもらえます。
理由は、転職後のモチベーション低下を防ぐため。慣れない仕事と給与減額のダブルパンチでパフォーマンス低下が懸念されるので「年収は下げない」が基本です。
これまで一定だった報酬が少しでも下がると、それ以上にモチベーションが下がる心理効果(さらに詳しい解説はこちら)
なにより多くの方の転職理由(本音)は「年収アップ」が多いので、年収が上がらないと辞退される可能性があります。これではせっかくの機会を逃しかねません。
逆に言えば、年収400万円の転職希望者にいきなり年収800万円のオファーを出すことはあり得ないので、転職で高い年収のオファーをもらうためには、今の職場で相応の年収まで引き上げておく必要があるということです。
④採用して得られる利益を考える(原価的な考え方)
やや特殊な事例ですが、あなたを採用することで得られる利益の額が大きく、確実性が高い場合には、原価的な考え方で、転職後の給与が優遇される可能性があります。
例えば、あなたがコンサルや代理店勤務でいくつかの太客を担当していて、転職するときにその顧客を引っ張ってこれる場合、転職先企業としては是非ともあなたを採用したいものです。
カモがネギを背負ってきたようなものです。仮に、あなたが顧客を引っ張ってくることで得られる利益が3億円あるなら、あなたに2億円出しても、企業側に1億円残ります。
給料を盛って伝えるのはあり?
リスクがゼロではないので推奨はしませんが、現職の年収を違和感がない範囲で盛って伝えることで、オファー金額を引き上げるというのも一つの手段です。
源泉徴収票を提出せずに自身で確定申告をすれば、ほとんどバレることはありません。
最後に
ここまで転職の給与交渉をして良いのか、するとしたらどういった点に注意すべきかを説明してきましたがいかがでしたでしょうか。
基本的に、転職時の給与交渉は可能ですが、やり方を間違えると失敗するだけでなく心象を悪くしてしまうので、慎重に進めるようにしましょう。
この記事を読んだあなたの人生がより豊かなものとなることを祈っております。