同一化とは|憧れの人物を真似することで叶わない願望による空虚感に対処する防衛規制

この記事を書いた専門家
長谷川
長谷川
国立大学卒業後、メンタルヘルス関連の専門的心理相談業務に従事。臨床心理学関連の論文執筆歴多数(保有資格:臨床心理士、公認心理士)

同一化とは

「同一化」とは、自分にとって重要な人物の真似することを通して、叶わない願望による空虚感や葛藤に対処する「防衛規制」の一つです。

  • 親や兄弟の真似をする
  • 憧れの芸能人の服装や髪型を真似する

といった経験がある方は多いのではないでしょうか。実は、こうした同一化(同一視とも言います)は、ヒトが「発達」していく上で重要な役割を果たします。

同一化は「防衛規制」の一つ

同一化は、今の自分では叶えることの願望や自分にないものを持つ他者になったかのように振舞うことで、空虚感やそれに関する葛藤へ対処しようとする「防衛規制」です。

防衛規制とは

防衛機制は認めがたい自分自身の感情や欲求から不安や葛藤などといったつらい感情を感じずに済むようにするための様々な対処法のことです。

オーストリアの精神科医であったフロイトが提唱し、後に、アンナ・フロイト(フロイトの娘)によってさらに体系化されました。

防衛規制の「取り入れ」との違い

防衛規制にはいくつか種類がありますが「同一化」と「取り入れ」という防衛機制が似ているのでよく比較されます。

取り入れは、同一化の前段階であるとあるともされており、下記のように差別化して記載する場合が多くあります。

同一化と取り入れの違い
  • 取り入れ(introjection)
    • 理想対象の「一部分」を取り込むこと
  • 同一化(identification)
    • 理想対象の「全て」を取り込むこと

しかし、取り込む程度は関係なく、自分の中に内在化しようとする防衛機制は「同一化」とされることがほとんどです。

同一化の提唱者はフロイト

防衛機制を最初に提唱したフロイトは、3~6歳の男の子の超自我の形成や男性としての性役割のためにも父親への同一化の重要性を述べています。

フロイトは、男児自身が父親より劣っていること(心理学ではエディプス・コンプレックスとも)に対処するために意識的・無意識的に努力するものだというのです。

つまり、同一化は子どもが発達していく原動力になると同時に同性の親へのライバルとしての敵対意識に対する防衛機制として働くという訳です。

参考:超自我

フロイトは人間の心は超自我、自我、イド(エス)の3つの働きで成り立っているとしました。超自我は「道徳心」や「良心」。それに対してイドは「本能的で快楽主義的」な部分を指します。自我は超自我とイドのバランスを現実を鑑みながら調整する役割を持っています。

参考:エディプス・コンプレックス

ギリシャ神話のエディプス王に由来するもの。フロイトによれば3~6歳の男児は母親への愛着を持つと同時に父親への敵意を抱くようになるとされます。

(フロイトの提唱する理論上は)母親の愛着は性的な関心を含んだものであるとされ、男児はそれ故に父親にその母親への愛着と父親への敵意が去勢という形で罰せられるのではと恐れるのです。

罰されず、そして、母親の愛情を得つづけるためにも男児は母親の愛する父親への同一化をすると考えていました。その結果、超自我や自らの性役割を獲得するとしました。

同一化の日常例

自分がかっこいいと思うモデルの髪型や恰好を真似する

髪型や恰好を真似することによって、「自分なんて可愛くない」という葛藤や「自分に自信が持てない…」といった不安を軽減させることが出来ます。

どこか一部でも真似をするだけでまるでその人になったかのような、自分とは全く別の人物になれた気持ちになれることもありますよね。

髪型や恰好を取り入れるのは比較的かんたんにできる方法ですし、同一化の例としても皆さんが一番分かりやすいのではないかと思います。

自分のあこがれの人の習慣や考えを真似る

髪型や恰好だけでなく、習慣や考え方といった目に見えない部分もあります。憧れの人を真似ることで「自分はできない…」という不安や葛藤を少しでも和らげようとします。例えば、仕事のデキる先輩の仕事の仕方を真似るだけでも、少しは自分も仕事がデキる人になれた気がしませんか?

仕事上のあこがれの人のモットーを自分もモットーにしていたり、同じようなことを自分も習慣化させてみたりと見た目を真似るよりもこちらの方がその人自身の在り方に大きく影響するかもしれませんね。

さいごに

同一化は真似ることで自身の不安や葛藤を取り除くだけでなく、自尊心の向上や自分の在り方を変化するきっかけにもつながります。

「真似る」ということに「自主性がない」等のネガティブなイメージを持たれる方もいるかとは思いますが、子どもが親やきょうだいの真似をしながら何かを学んでいくようにそれは人が成長していくための大切な要因なのです。

大人になってもそれは同じでいきなり何のお手本もなしにできる人はごく少数でしょう。同一化することでもっと自分を好きになれたり、新しい自分になれたりするのかもしれません。最初はただの真似でも徐々にあなたらしさも加わっていくことでしょう。

防衛機制である「同一化」。はじめは自分自身の不安や葛藤からの無意識的な行動かもしれませんが、それがあなたの成長のきっかけにもつながるかもしれませんね。