双極性障害(旧:躁うつ病)|躁状態とうつ状態の両極端な症状が出る精神疾患

この記事を書いた専門家
長谷川
長谷川
国立大学卒業後、メンタルヘルス関連の専門的心理相談業務に従事。臨床心理学関連の論文執筆歴多数(保有資格:臨床心理士、公認心理士)

双極性障害(躁うつ病)とは

双極性障害(Bipolar Disorder)とは、過剰に気分が高揚して過活動になる「躁状態」軽躁状態」の中に、無気力無感動になる「うつ状態」という両極端の症状が現れる精神疾患のことです。

  • 症状①躁状態
  • 症状②軽躁状態
  • 症状③うつ状態

それぞれの症状を簡単に見ていきましょう。

双極性障害の症状①「躁状態」

躁状態は、過剰に気分が高揚し、過活動になって、自分には何でもできるかのような万能感を抱くことが特徴的で、概ね以下の傾向があります。

  • 毎日のように徹夜しても眠気を感じない
  • 相手に休む間を与えないほどの多弁になる
  • 仕事や勉強にもがむしゃらになる

また、万能感から失敗することを想定せずに「思い切った思考や行動」を取ることが特徴的で、周囲に迷惑をかけ、常識を脱した行動を取ることもあります。

  • 失敗を考えずに借金をして買い物をする
  • アクセル全開で高速道路を逆走する
  • 空を飛べると思い込んで屋上から飛び降る
  • 超能力があると思い込んで周囲に吹聴する

このように、一つ間違えば、人生に大きな傷跡を残してしまいかねないことから、入院が必要になることもあります。

双極性障害の症状②「軽躁状態」

軽躁状態は、“気分が高揚する”という点では「躁状態」と同じですが、躁状態とは違い、周囲や他人に迷惑をかけたり、明らかに常識を逸脱したりするようなことはありません。

日頃とは人が変わったように元気で明るく「ハイテンションだな」と感じられる程度の昂揚です。社交的になるので、相手や周囲から見ると、少し距離が近いな、行き過ぎているな、と思われるような違和感がある程度の、比較的軽い症状になります

双極性障害の症状③「うつ状態」

うつ状態は、抑うつ気分(憂うつさや気分の重さ)、無気力・無感動が主な症状とされています。他には、下記のような症状が見られることもあります。

  • 不眠
  • 疲れやすさ
  • 思考力低下
  • 自己否定感
  • 気分や意欲の減退
  • 死んでしまいたい気持ち(希死念慮)

これらは誰もが一度や二度は感じたことのあるものですが、精神医学や臨床心理学では、それが1~2週間以上強く続く場合、注意やケアが必要と考えられています。


このように、双極性障害は、過剰に気分が高揚して過活動になる「躁状態」「軽躁状態」と、無気力無感動になる「うつ状態」という両極端の症状が現れる精神疾患です。

ちなみに、あくまで躁状態(あるいは軽躁状態)がメインで、その経過のなかでうつ状態を示すことがある、とされています。

以前は「躁うつ病」と呼ばれており、躁による精神不調を併せ持つ「うつ病」に分類されていましたが、現在では、症状のメカニズム等の相違から「うつ病」とは区別して考えられています。

双極性障害の診断基準(DSM-5)

ここでは、双極性障害の診断基準についてDSM-5を意訳しつつ引用していきます。ほとんどの方はDSM-5をご存知ないと思いますので、最初に簡単に説明しますね。

診断基準となる「DSM-5」とは

DSM-5とは、アメリカ精神医学会発刊の『Diagnosis and Statics Manual of Mental Disorders(精神疾患の診断・統計マニュアル)』の第5刷を略したものです。

未知の部分が多い精神疾患や精神障害について、ほとんどの精神科医が、この「DSM-5」をスタンダードとして、診療や研究にあたっています。

双極性障害に関しては、DSM-5の第3章「双極性障害および関連障害群」で取り上げられており、主に下記のような障害が掲載されています。

  • 双極I型障害(うつ状態と躁状態)
  • 双極II型障害(うつ状態と軽躁状態)
  • 気分循環性障害(うつ状態と軽躁状態が2年間以上繰り返されている)
  • その他の双極性障害

では見ていきましょう。

双極I型障害の診断基準

双極I型障害の診断基準は下記の通りです。

A. ほぼ一日中、気分が異常かつ持続的に昂揚し、過剰に開放的になったり怒りやすくなったりすることに加え、常軌を逸するほどの活力を見せることが、1週間以上続いている
B. 普段の行動とは明らかに異なる変化を示しており、次の(1)~(7)のうち3つ以上にあてはまる
(1)常識的な範囲を超える自尊心の肥大や誇大
(2)睡眠欲求の顕著な減少
(3)平時よりも明らかに多弁であるか、しゃべり続けようとする切迫感がある
(4)色んな考えが頭のなかを飛び交ってしまって何か1つを集中して考えられない、あるいは、いくつもの考えがせめぎ合ってしまって考えまとまらない
(5)平時なら気にならないような些細な周囲の変化や刺激に反応し、注意散漫になる
(6)社会的、職業的(学業的)、性的な領域での目標達成のために他のことになりふり構わずに邁進する、あるいは、目標や意味もなくとにかくしゃかりきになる
(7)後々自分の首を絞めるような無謀な行動に熱中する(たとえば、高級品の買いあさり、無分別な性的接触、行き当たりばったりの高額投資)
C. この症状は、著しい精神的・心理的苦痛を与えているか、あるいは社会生活・職業生活などの日常生活に顕著な支障を与えていて、自分自身や他者に危害を与えかねないほどに重篤である
D. 薬物乱用や薬の副作用、他の疾患の生理的作用から直接的影響を受けていない

引用元:DSM-5

上記の基準A~Dにはてはまる躁病エピソードが存在している必要があります。抑うつエピソードはある場合とない場合があります。

基準Cにあるように、入院を要するような激しさをもつことが特徴的です。基準Bのいくつかは統合失調症の症状にも似ているため、統合失調症では説明がつかない症状があることが大切です。

双極Ⅱ型障害の診断基準

は下記の通りとなっています。

A. 1日の大半で、気分が異常かつ持続的に昂揚し、過剰に開放的になったり怒りやすくなったりすることに加え、常軌を逸するほどの活力を見せることが、4日以上続いている
B. 普段の行動とは明らかに異なる変化を示しており、次の(1)~(7)のうち3つ以上にあてはまる
(1)常識的な範囲を超える自尊心の肥大や誇大
(2)睡眠欲求の顕著な減少
(3)平時よりも明らかに多弁であるか、しゃべり続けようとする切迫感がある
(4)色んな考えが頭のなかを飛び交ってしまって何か1つを集中して考えられない、あるいは、いくつもの考えがせめぎ合ってしまって考えまとまらない
(5)平時なら気にならないような些細な周囲の変化や刺激に反応し、注意散漫になる
(6)社会的、職業的(学業的)、性的な領域での目標達成のために他のことになりふり構わずに邁進する、あるいは、目標や意味もなくとにかくしゃかりきになる
(7)後々自分の首を絞めるような無謀な行動に熱中する(たとえば、高級品の買いあさり、無分別な性的接触、行き当たりばったりの高額投資)
C. 軽躁病エピソードは、症状のないときのその人とは明らかに違う変化を伴っている
D. 気分や行動の変化は他者から観察できる
E. この症状は、著しい精神的・心理的苦痛を与えているか、あるいは社会生活・職業生活などの日常生活に顕著な支障を与えている
F. 薬物乱用や薬の副作用、他の疾患の生理的作用から直接的影響を受けていない

引用元:DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル

上記の基準A~Fにはてはまる軽躁病エピソードが存在している必要があります。抑うつエピソードはある場合とない場合があります。

また、過去に双極Ⅰ型障害の躁病エピソードを経験したことがある場合は、現在の状態が双極Ⅱ型障害にあてはまったとしても、双極Ⅰ型障害と診断することになっています。

双極Ⅰ型障害と同様に、基準Bのいくつかは統合失調症の症状にも似ているため、統合失調症では説明がつかない症状があることが大切です。

気分循環性障害(Cyclothymic Disorder)の診断基準

気分循環性障害の診断基準は下記の通りです。

A. 少なくとも2年間(幼少期から青年期までは1年間)、軽躁病エピソードを満たさない軽躁症状と抑うつエピソードを満たさない抑うつ症状が繰り返し存在する
B. 上記の期間中、少なくとも半分は軽躁症状か抑うつ症状があり、症状がなかった期間は連続2ヶ月を超えない
C. 躁病エピソード、軽躁病エピソード、抑うつエピソードの基準を満たしたことがない
D. 統合失調症スペクトラム障害および他の精神病性障害群にはあてはまらない
E. この症状は、著しい精神的・心理的苦痛を与えているか、あるいは社会生活・職業生活などの日常生活に顕著な支障を与えている
F. 薬物乱用や薬の副作用、他の疾患の生理的作用から直接的影響を受けていない

引用元:DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル

抑うつの診断基準

抑うつの診断基準は下記の通りです。

A. 2週間以上、次の(1)~(9)のうち、(1)あるいは(2)のいずれかを含む5つ以上にあてはまる期間が続いている
(1)ほとんど毎日、一日中、抑うつ気分がある(たとえば、かなしみ、空虚感、絶望感)
(2)ほとんど毎日、一日中、ほとんどすべての活動において興味や喜びが減退している
(3)ほとんど毎日の食欲の減退または増加、あるいは、体重の減少または増加
(4)ほとんど毎日の不眠または過眠
(5)ほとんど毎日の焦燥感または活動減退
(6)ほとんど毎日の疲労感または気力の減退
(7)ほとんど毎日の無価値感や過剰または不適切な自責感
(8)ほとんど毎日の思考力・集中力の減退または決断の困難
(9)死について繰り返し考える、または死んでしまいたいという願望や自殺の計画がある
B. この症状は、著しい精神的・心理的苦痛を与えているか、あるいは社会生活・職業生活などの日常生活に顕著な支障を与えている
C. 薬物乱用や薬の副作用、他の疾患の生理的作用から直接的影響を受けていない

引用元:DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル

双極性障害の症状のメカニズム

ここでは双極性障害の症状のメカニズムについて解説していきます。

  • 1)発症のリスク要因・環境
  • 2)症状の起こりやすさと経過
  • 3)症状の起こりやすい場面や出来事

では見ていきましょう。

1)発症のリスク要因・環境

双極性障害の発症には、家族性があります。親族のなかに双極Ⅰ型障害あるいは双極Ⅱ型障害をもつ場合、発症のリスクは10倍程度になり、リスクは血縁が近ければ近いほど高いことが知られています。現在、双極性障害の発症に影響を与える遺伝負因があるのではとも考えられていますが、今のところそれを実証する研究データは見られません。

双極性障害の原因はまだ解明されていませんが、精神疾患の中でも、脳やゲノムなどの身体的な側面が強い病気だと考えられています。ストレスが発症の引き金になったり悪化に影響を及ぼしたりすることはありませんが、心の悩みによって発症するものではありません。どんな性格の人でも発症しうる精神疾患です。

2)症状の起こりやすさと経過

有病率に大きな性差はなく、人種や文化圏からの影響も特段報告されていません。双極性障害は青年期後期以降いつでも発症する可能性があります。発症の平均年齢は、双極Ⅰ型障害は18歳前後、双極Ⅱ型障害は20歳前後と言われています。

多くの例で、双極Ⅰ型障害であれば躁病エピソード、双極Ⅱ型障害であれば軽躁病エピソードの前に抑うつエピソードが存在します。

そのため、最初はうつ病と診断され、その後に躁病あるいは軽躁病エピソードが出現し、診断名が変わることが頻繁に起こります。これは誤診ではなく、医師であっても、躁病あるいは軽躁病エピソードが出現するかしないかを判別できないために生じる、現代精神医学の限界と言えます。この限界を突破するための研究や検査が開発されていますが、未だ決め手には欠く状態です。

双極性障害は適切な治療を受けない場合、なかなか状態が改善せず、一見症状が落ち着いたように見えてもより重症化して再発しやすい傾向にあります。また、双極Ⅱ型障害では他の精神疾患を併発している割合が高いことが知られています。最も多い併存症は、不安障害です。

3)症状の起こりやすい場面や出来事

躁病エピソードや軽躁病エピソードの発現は、ストレスや心の悩みから一定の影響を受けるものの、それが症状に直結することはありません。

したがって、症状の起こりやすい場面や出来事などは特にありません。脳が勝手に気分の波を変動させ、本人や周囲がそれに振り回されてしまうのが、この病気の特徴です。

双極性障害の代表的な治療方法

双極性障害は、脳の変調によって生じる気分の波ですから、薬物療法によって気分を安定させることが大切です。

双極性障害への薬物治療

リチウム、バルプロ酸など、躁状態とうつ状態を改善したり予防したりする効果をもつ、気分安定薬による薬物療法を行うことが一般的です。

これらはうつ病の薬と作用の仕組みが全く異なるため、躁病エピソードや軽躁病エピソードが出現したら、ただちにうつ病との理解で行われていた薬物療法を見直し、双極性障害のための薬物療法に切り替えていくことが重要です。

近年では、双極性障害に対してうつ病の治療薬を用いると、症状が悪化することが知られています。

双極性障害で用いられる精神科薬は比較的効果がある一方で、副作用が強く、使い方が難しいと言われています。

ただ、双極性障害の治療薬は限られており、薬物療法が最も効果的であることから、医師に相談しながら副作用とうまく付き合っていくことが望まれます。

双極性障害への心理教育

双極性障害は、心の悩みによって生じるものではないため、心理療法による効果は限定的です。

しかし、双極性障害は症状や薬の副作用との付き合いが長くなる傾向にあるため、心理教育によって、病気に対する理解を深め、治療に前向きに取り組んでいけるように支援を受けることが有用です。

特に躁病エピソードや軽躁病エピソードは自覚にしにくいため、自分にとっての再発のしるしは何なのかをよく把握することが大切です。

再発したとしても、早くそれを把握して治療に取り組めば、比較的早期に状態を落ち着かせることが可能です。逆に、再発の発見が遅れてしまうと、症状が長引き、重症化してしまいます。

双極性障害のセルフケアと再発予防

双極性障害は脳の変調なので、自分で発症自体をコントロールすることはできません。そのため、病気を受け止めて、薬を飲み、再発防止を心がけるようにしましょう。

  • 双極性障害という病気を受け止めること
  • 立ち向かう気持ちをもつこと
  • 再発予防を心がけること

再発予防に欠かせないのは、とにかくきちんと薬を飲み続けることです。「症状が落ち着いているから」「副作用がつらいから」と自己判断で中断してしまうと、予後が悪くなり、再発可能性が高まります。

減薬をしたい場合は、自分の状態をよく理解して把握してくれる医師との相談が必須です。専門家による心理教育を受け、再発の予兆を察知したらすぐに受診し、医師にそのことを伝えましょう。というのも早期発見・早期治療ができれば、再発の波を最小限にとどめることができるためです。

双極性障害との付き合いは長くなりますが、日頃から自分の心身に気を配っていれば、双極性障害の症状に振り回されることなく日常生活を送ることも可能です。

特に、双極性障害の症状の安定には、規則正しい生活が有益であると言われています。早朝や深夜の活動、徹夜は避けましょう。日中に太陽の光を浴び、散歩やストレットなどの軽い運動、そして毎日同じようなリズムで生活できると効果的です。

双極性障害への周囲のかかわり方

双極性障害で躁病エピソードや軽躁病エピソードに陥っていると、自分自身でその不調を察知することが難しくなります。

本人はスーパーマンになったような気持ちよさや万能感を抱いていることすらあります。周囲はその行動の無謀さや極端さから、本人よりも先に変調に気づくことができます。病気の性質をしっかりと理解し、変調を感じたら、すぐに医療機関への受診をうながすことが重要です。

また、双極性障害の症状は無謀な行動を起こさせるため、周囲も症状やその無謀な行動に振り回されてしまうことが少なくありません。

こうしたつらさを本人と分かち合うことは難しいため、苦労を吐き出せる相手を見つけ、溜め込まずに吐き出すことが大切です。