うつ病(大うつ病性障害)|無気力無感動で自己否定感に苛まれ、日常生活に支障が出る精神疾患

この記事を書いた専門家
長谷川
長谷川
国立大学卒業後、メンタルヘルス関連の専門的心理相談業務に従事。臨床心理学関連の論文執筆歴多数(保有資格:臨床心理士、公認心理士)

うつ病とは

うつ病とは、無気力・無感動で絶望や虚無感、強い自己否定感に苛まれ、不眠や食欲不振などの自律神経系機能にまで変調が及び、日常生活に支障が出る精神疾患です。

例えば以下症状がある場合、うつ病が疑われます。

  • 何をしても楽しめない
  • 一日中気分が落ち込んでいる
  • 眠れない、食欲がない、疲れやすい

うつ病は、精神的・身体的ストレスを背景に、脳がうまく働かなくなっている状態です。また、うつ病になると、ものの見方や考え方が否定的になることが特徴です。

また、うつ病と診断されるための普遍的な基準はないので「平時の状態と比べてどのくらい違いがあるか」で変調を見極めることが大切です。なぜなら、陽気な人もいれば陰気な人もいるように、情緒が豊か、あるいは淡々としていて感情に左右されにくいなど、人それぞれだからです。

一方で、気分の落ち込みや無気力感に加え、急激な体重の増減、本来起きる時間より2時間以上前に起きてしまって寝付けない「早朝覚醒」や、具体的な理由はないけれど漠然と死を願うような気持ち(希死念慮)がある場合は、強く「うつ病」が疑われます。

うつ病と似た症状との違い

うつ病とよく勘違いされる疾患に“適応障害”や“抑うつ気分”があるので、それらとの違いを簡単に説明していきます。

  • 適応障害との“違い”はストレス因の明確さ
  • 気分の落ち込みが一時的なら“抑うつ気分”

では見ていきましょう。

適応障害の“違い”はストレス因の明確さ

うつ病と適応障害では「気分の落ち込みや意欲減退」といった症状が出るところは同じなのですが、症状が出る状況が異なります。

うつ病と適応障害の違い
  • うつ病
    ほとんど毎日持続する
    ストレスから離れても症状が出る
  • 適応障害
    ストレスとなる状況と連動して出現する
    明確なストレスを本人が自覚している

“うつ病”はどこでなにをしていても症状が出る可能性がありますが、“適応障害”はストレスを感じる環境から身を離すことで症状が落ち着きます。

もし、適応障害の原因が「職場での人間関係」なら、休日や勤務後などで職場から離れると気分は落ち込みにくく、人事異動や転職で職場環境が変われば早期に症状が落ち着きます。

一方で、うつ病の場合だと特定のストレスだけが原因で発症に至るわけではありません。休日も気分が落ち込んだままで、もともと好きだったことですら気力が湧くことはなく、うつ病の症状自体が落ち着かない限り、不調は続きます。

気分の落ち込みが一時的なら“抑うつ気分”

うつ病と似た症状のものに“抑うつ気分”というものがありますが、これは一時的なもので、一般的に1週間単位で継続することはありません。

  • うつ病
    少なくとも2週間以上持続する
  • 抑うつ気分
    1週間以上続くことはない

人は誰でも、一度や二度、気分の落ち込み(抑うつ気分)を経験します。ものかなしく、何をするにもモチベーションがあがらず、希望を感じられないような、暗く沈んだ気分の状態です。ただ、ほとんどが一時的なもので、1週間単位、1ヶ月単位で持続することはありません。

うつ病の診断基準(DSM-5)

ここではうつ病(大うつ病性障害)の診断基準についてDSM-5を意訳しつつ引用していきます。一般の方はDSM-5についてご存知ないと思いますので、最初に簡単に説明しますね。

診断基準となる「DSM-5」とは

DSM-5とは、アメリカ精神医学会発刊の『Diagnosis and Statics Manual of Mental Disorders(精神疾患の診断・統計マニュアル)』の第5刷を略したものです。

未知の部分が多い精神疾患や精神障害について、ほとんどの精神科医が、この「DSM-5」をスタンダードとして、診療や研究にあたっています。

余談ですが、DSM-5にはいくつかの似通った精神障害が章ごとにまとめられており、うつ病(大うつ病性障害)は、第4章「抑うつ障害群」のなかに記載されています。

うつ病の診断基準

DSM-5に記載されている「うつ病」の診断基準は以下のようになっており、基準Aがうつ病の特徴をよく表しています。専門用語が多いため、わかりやすく意訳してお示しします。

A. 以下の(1)~(9)のうち、(1)か(2)のどちらかを含む5つ以上にあてはまるような症状が2週間のうちに生じており、それは症状が出始める前のその人の状態と明らかに違っている

(1)毎日、1日中、抑うつ気分がある(たとえば、かなしみ、空虚感、絶望感、涙が流れる)
※子どもの場合は怒りやすくなることもある
(2)毎日、1日中、ほとんどすべての活動に対する興味や喜びの著しい減退がある
(3)食事療法(ダイエットなど)をしていないのに1ヶ月で体重の5%以上の体重の増減がある、または、ほとんど毎日の食欲の減退もしくは増加
(4)ほとんど毎日の不眠または過眠
(5)ほとんど毎日、精神運動焦燥(静かに座っていられない、皮膚や服のすそをひっぱる、髪の毛をいじる、など)、または精神運動制止(あたまがうまく働かない、動作が緩慢になる、会話の内容が豊かでなくなる、など)がある
(6)ほとんど毎日の疲労感、または気力の減退
(7)ほとんど毎日の事故に対する無価値感や過剰な罪責感・自責感
(8)ほとんど毎日の思考力・集中力の減退がある、または、ちょっとしたことでも決断することができない
(9)繰り返される死についての思考もしくは希死念慮がある、または、自殺するためのはっきりした計画がある

B. 基準Aのような抑うつエピソードは、著しい精神的・心理的苦痛を与えているか、あるいは社会生活・職業生活などの日常生活に顕著な支障を与えている

C. 薬物乱用や薬の副作用、他の疾患の生理的作用から直接的影響を受けていない

D. 統合失調症スペクトラム障害および他の精神病性障害群にはあてはまらない

E. 躁病エピソード、または軽躁病エピソードが存在したことがない

うつ病の症状のメカニズム

ここではうつ病の症状メカニズムとして、うつ病の症状が発生するまでの過程に焦点を充てて論じていきます。

  • 1)発症のリスク要因・環境
  • 2)症状の起こりやすさと経過
  • 3)症状の起こりやすい場面や出来事

では見ていきましょう。

1)発症のリスク要因・環境

以前は、うつ病の発症には脳内の神経伝達物質が関係していると考えられており「モノアミン仮説(ノルアドレナリンやセロトニンなどの神経伝達物質(モノアミン)が欠乏してうつ病を発症するという仮説)」が比較的支持されていました。

しかし現在は、モノアミン仮説だけでは説明できないことがわかっているものの、依然はっきりとしたメカニズムはわかっていません

うつ病の遺伝率は40%程度と言われており、第一度親族(血縁上の親や子)にうつ病を持つ人がいると、一般人口よりも2~4倍、発症リスクが高くなるとの報告があります。

神経症傾向が高いと“うつ病”になりやすい

うつ病を発症する危険因子としては「神経症傾向(神経症的特質)」がよく知られています。これは否定的感情を持ちがちで、落ち込みやすく、感情や情緒面が不安定な傾向のことです。

神経症傾向が高いと、自分のなかで不安や否定的感情が強くなりすぎないよう、他者との対人関係を円滑にしようと絶えず気を遣ってしまいます。

そのため、他者からはいつも一生懸命で真面目な気遣い屋さんとして評価されやすいのですが、そのためにますます気を抜くことができなくなってしまいます。

普段溜め込んだストレスが限界を超えたり、日常にはなかった新たなストレスが加わったりした際、それが引き金となって、うつ病を発症してしまうのです。

余談ですが、うつ病になりやすい人の人格特性を「うつ病の“病前性格”」と言います。(元々の性格のあり様が悪いかのようにも受け取れる字面ですが、そういった意味はありません。因果を示しているだけです。)

2)症状の起こりやすさと経過

うつ病はどんな年齢でも発症しますが、特に思春期以降に増加します。有病率には若干の性差があり、女性の方が高いと言われています。

一般的に、初めてうつ病を発症した場合であれば、3ヶ月以内に40%が回復し、1年で80%が回復に向かうことが知られています。反対に、繰り返しうつ病が発症している場合や、他の精神疾患(例:パーソナリティ障害や不安障害)が併存している場合は、慢性化しやすく治療も長期間に及びます。

また、うつ病のように見えて、実は双極性障害(躁うつ病)や統合失調症であった場合などは、それぞれの精神疾患特有の症状が出てくるまでは専門家でも見分けがつかない場合が多く、特有の症状が出た時点で診断名が変わったり加わったりします。(精神科医療において診断名の変更は、誤診ではなく、出現した症状に合ったより適切な診断への更新と考える必要があります。)

3)症状の起こりやすい場面や出来事

抑うつエピソードの発現は、ストレスや心の悩みから一定の影響を受けるものの、それが症状に直結することはないので、症状の起こりやすい場面や出来事などはありません

ただ、一般的な傾向として、早朝から午前中にかけては気分の落ち込みや気力減退が強く、夕方にかけて次第に気分が楽になったり少し活動できるようになったりしていくことが知られています。(これを「日内変動」と言います。)

うつ病の代表的な治療方法

うつ病の経過は個別性が高く、治療においても一人ひとりに合った治療を組み合わせて行われます。

典型的な「うつ病」であれば、脳の機能不全によって生じるため、薬物療法によって症状の改善が期待できます。それでも「薬物療法“のみ”で改善するのは30%」とされており万能ではありません。

そのため、薬物療法に加えて、環境調整や心理療法などがあわせて行うことで、回復可能性を高め、再発リスクを下げるのが通例です。

  • うつ病への薬物治療
  • うつ病への心理療法
  • うつ病のセルフケアと再発予防

では見ていきましょう。

うつ病への薬物治療

うつ病への薬物療法では、抗うつ薬を用いるのが一般的です。

抗うつ薬には、第一世代と第二世代がありますが、いずれも、ノルアドレナリンやセロトニンなどの神経伝達物質の欠乏がうつ病を発症させるという「モノアミン仮説」に基づいて開発されています。

第一世代の抗うつ薬

三環系抗うつ薬と四環系抗うつ薬です。

脳内に神経伝達物質分泌された際、相手先にうまく取り込まれずに周囲に浮遊してしまう“あまり”のようなものが出ます。脳内にはその浮遊物を回収(再取り込み)する働きもあるのですが、回収されてしまうと、相手先には届きません。三環系抗うつ薬と四環系抗うつ薬には、再取り込みを阻害する作用があり、そうすることで、相手先に届く神経伝達物質を多くすることができます。

うつ病の治療のためには、セロトニンとノルアドレナリンの再取り込みを阻害すればいいのですが、三環系抗うつ薬と四環系抗うつ薬はそれ以外の神経伝達物質の取り込みも阻害してしまうという副作用があります。口の渇きや便秘が起こる「抗コリン作用」、眠気などが起こる「抗ヒスタミン作用」などです。

そのため現在では、第二世代の抗うつ薬では症状が改善しない場合や重症例に処方されています。三環系抗うつ薬と四環系抗うつ薬では、四環系抗うつ薬の方が、副作用が軽い傾向にあります。

第二世代の抗うつ薬

三環系抗うつ薬と四環系抗うつ薬の欠点を改善し、セロトニンやノルアドレナリンの再取り込みだけを阻害できるようになりました。SSRI(選択的セロトニン再取込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取込み阻害薬)です。

また、再取り込みを阻害するのではなく、分泌自体を促進させる薬も開発されました。NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)です。

SSRI、SNRI、NaSSAは新規抗うつ薬と言われいます。うつ病に関係すると考えられている神経伝達物質にターゲットを絞っているため、効果が高く、副作用も少ないのが特徴です。

そのため現在では、この新規抗うつ薬のどれかを第一選択として薬物療法を行い、症状の変化や本人と薬との相性を見極めながら処方内容を調整していくという流れが一般的となっています。

抗うつ薬の効果を高める増強療法 抗うつ薬に非定型抗精神病薬を組み合わせて使うことを「増強療法」と言います。抗うつ薬の効果を高めることが知られており、抗うつ薬による治療では十分な効果が認められない場合に行われます。

日本では、抗うつ薬の増強療法に使用できる非定型精神病薬に制限があり、期間を決めて短期(約6週間)に実施することが推奨されているため、主治医の指示にしたがって適切に行うことが大切です。

症状に合わせた併用療法

抗うつ薬は気分の落ち込みや気力減退に効果を発揮しますが、うつ病の症状はそれだけではありません。そのため、症状に合わせた薬が併用されることがあります。

不安や緊張が高い場合に処方されるのは、「抗不安薬」です。「睡眠導入剤(睡眠薬)」は、寝付けない場合、寝ている途中で起きてしまう場合(中途覚醒)、必要以上に早く起きてしまって眠れない場合(早朝覚醒)に用いられます。

睡眠導入剤にはいくつか種類があり、作用時間が異なるため、どういう不眠症状が出ているかによって処方が調整されます。

そのほかにも、必要な薬が組み合わせて処方されますが、複数種類の併用には弊害がつきものです。症状の苦しさと薬の効果を天秤にかけながらの調整が必要となるため、主治医との相談が不可欠です。

うつ病への心理療法

うつ病は比較的古くから心理療法の適用とされてきた精神疾患です。日本では来談者中心療法や認知行動療法が中心となっていますが、多くの専門家はその人の状態に合った手法を組み合わせながら心理療法を行っています。

どの心理療法にも共通するのは、プロセスのなかで自分の考えや思考の傾向に気づき、それがより自分にとって生きやすいものへと変化していくことを手伝っている、ということです。

日本での実践例は少ないですが、うつ病になるとどうしても自他や物事の否定的な部分に目を向けてしまうため、自然と肯定的な部分に目が向けられるようにするという特徴を持つ心理療法、「解決志向アプローチ」はうつ病の改善を得意とする心理療法の1つです。

通常の心理療法は専門家(臨床心理士等)との協同作業ですが、認知行動療法の1つである「認知再構成法(Cognitive Restructuring)(別名、コラム法)」は、ワークシートを使いながらひとりでも行うこともできます。これは、人が相手と話したり相談にのったりしているときの思考の流れをワークシートに書き込みながら再現するような手法です。

うつ病のセルフケアと再発予防

うつ病は、ストレスが心の限界値を超えるよって発症します。ストレスのたまり具合を調整するには、いくつかのセルフケアがあります。

  • 意識してストレスを減らす
  • たまったストレスを吐き出す
  • 体の働きをうまく使う

順番に見ていきましょう。

意識してストレスを減らす

日々感じるストレスの量を少なくすることが重要です。

自分が抱え込みやすいストレスや発症の引き金になりやすいストレスの特徴を知り、それらを避けたり無理をしないようにしたりすることが対策になります。

また、真面目すぎる、頑張りすぎる、などの“遊び”のない生活は日常的なストレスを高めるため、意識して肩の力を抜きながら生活をすることも大切です。

たまったストレスを吐き出す

心に溜まってしまったストレスは、適切な休養やリフレッシュによってくみ出すことが可能です。もちろん、一般的にイメージするような趣味活動や体の休養も大切です。

ただ、効果的なリフレッシュの方法は人によって違います。そのときの自分にとって何がリフレッシュになるかわからないときには“どちらが自分にとって楽なのか”を基準に考えることが大切です。

体の働きをうまく使う

ストレスをくみ出すには、副交感神経が優位な時間を過ごすことも有益です。あたたかい湯船にゆっくり浸かったり、静かめの好きな音楽を聞いたりすることで副交感神経を高めることができます。

散歩やストレッチなどの軽い運動や朝日を浴びることは、セロトニンの分泌を活性化させることにつながります。

うつ病の心理教育

このように、病気に対する正しい理解を深め、治療に前向きに取り組んでいくための教育的支援を、心理教育と言います。

うつ病は再発しやすいため、特に心理教育が重要です。うつ病の特徴やうつ病につながりやすい思考パターンなどを知り、再発予防に役立てます。

うつ病への周囲のかかわり方

周囲の目から見ると、うつ病で最も目立つのは、気分の落ち込みや気力の減退です。これらはうつ病を持たない人でも一過性に体験することがあるものです。

ついつい自分の体験にあてはめて励ましたり、自分にとって元気が出る活動をすすめたりしがちですが、うつ病に陥っているときの気分の落ち込みや気力の減退は、通常私たちが日常生活で体験するものとは質が異なります。

すでに脳が機能不全となっているため、本人がいくら元気になりたくても元気になれないというのが、うつ病の状態です。

むやみやたらな励ましや助言は逆効果になってしまうため、控える必要があります

典型的なうつ病の場合、本人もどこかで早くよくならねばという焦りがあり、それがさらなる心理的負担になっていることが少なくありません。周囲は本人よりもゆったりと構え、経過を見守ることが必要なのです。

さいごに

ここまでうつ病について解説して来ましたがいかがでしたでしょうか。

改めて再掲すると、うつ病とは、無気力・無感動で絶望や虚無感、強い自己否定感に苛まれ、不眠や食欲不振などの自律神経系機能にまで変調が及び、日常生活に支障が出る精神疾患です。

例えば以下症状がある場合、うつ病が疑われます。

  • 何をしても楽しめない
  • 一日中気分が落ち込んでいる
  • 眠れない、食欲がない、疲れやすい

うつ病は、精神的・身体的ストレスを背景に、脳がうまく働かなくなっている状態です。また、うつ病になると、ものの見方や考え方が否定的になることが特徴です。

もし症状が疑われる場合には、心療内科や精神科へ通院して医師の診断を受けてください。無理はしないことをおすすめします。

このページを読んだあなたの人生がより豊かになることを祈っています。