ダニングクルーガー効果(優越の錯覚)とは|能力が低い人ほど自分を高く評価する認知の歪み

ダニング・クルーガー効果とは、能力の低い人ほど自分を高く評価するという現象のことで、根拠がないのに自身を過大評価をすることから「優越の錯覚」とも呼ばれる心理効果です。

ここで言う「能力の低い」というのは「知能指数が低い」という意味ではなく、単純に「自分自身を客観的に評価する能力」のことです。

そして多くの人が、なにかについて自己評価を求められると「自分ならこのくらい出来るだろう」と考えて、ついつい高い評価を自分にしてしまう傾向にあるのです。

では早速、ダニング・クルーガー効果について解説していきます。

「ダニング・クルーガー効果」は、認知バイアスの1つ

認知バイアスとは、常識や固定観念、また周囲の意見や情報など、さまざまな要因によって「合理的でない」認識や判断を行ってしまう認知心理学の概念です。

ダニング・クルーガー効果の他にも様々な認知バイアスがあります。

認知バイアスの例
  • 確証バイアス
    自分の仮説や信念を検証するとき、都合良い情報ばかりを集め、都合の悪い情報を見なくなる心理現象
  • 正常性バイアス
    自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価したりする心理現象

ちなみに、「バイアス」とは思考の偏りのことを指しています。

そもそもバイアスとは

「バイアス(bias)」はもともと英語で「かたより(偏り)」という意味で、心理学においては「人の思考における偏り」を指します。

言い換えると、「思い込み」や「先入観」、「偏見」「差別」といったものから、「傾向」という軽度なものまですべて「バイアス」です。

これらのバイアスは、脳が「知覚し・感情を生起させ・記憶を形成し・行動に至ったりする」といった全プロセスに影響を与えるため、ときに大きな判断ミスに繋がることもあります。

そして、思考にバイアスのない人間は存在せず、全ての人間は、あくまで限定された合理性しか持ち得ないというのがポイントです。

「ダニング・クルーガー効果」の実証実験

ダニング・クルーガー効果はその名の通り、コーネル大学のダニング博士とクルーガー博士の共同の研究によって名付けられたものです。

博士たちはいくつかの研究を通して、このダニング・クルーガー効果を提唱しました。

実験内容はこちら。

ダニング・クルーガー効果の実験

参加者にテストを実施(テスト内容はユーモア、理論的思考、英文法)

そして、彼らに「自身のテストの出来」と「他者がどの程度の成績だったか」について尋ねたもの。

そして、実験の結果、

  • テストのスコアが高い人ほど、自分は出来ていないと評価
  • テストのスコアが低い人ほど、自分は出来ていると評価

という結果になりました。

また、他者の能力における評価は、さほど正確性がないことが確認されました。

また実験結果から、以下のようなこともわかったとされています。

ダニングクルーガーの実験によってわかったこと
  1. 自分の能力が期待水準に達していないことを認識できない
  2. 自分の能力がどの程度、不足しているかの認識が十分ではない
  3. 他人の能力評価についても正確性に欠ける
  4. 対象となる能力についてのトレーニングを受けた後であれば、トレーニングを受ける前よりも自分自身の人の能力がいかに不足しているかを認識することができる

そもそも、自分の能力をきちんと認知できない理由は評価基準などをはっきり理解せず、なんとなく判断しているためです。

そのため、自分自身または他者に対する評価を客観的に認知する力はトレーニングによって養うことができるとされています。

「ダニング・クルーガー効果」の日常における事例

例えば、全くテスト勉強をしていないのに、テストをやってみると「割と解けた気がする」と根拠のない自信が湧いたことはないでしょうか?

そして、いざテスト結果を見てみると、結果は散々だったということもあるでしょう。

これは勉強をしていないので、自分がどこまで勉強内容を理解しているか確認が出来ていないために起こる現象です。

本来、勉強をしていれば、自分がどの程度できているのか、あるいはできていないのかを認知できるはずですから、自信を持つより不安になってしまうことも多いはずなのです。

「ダニング・クルーガー効果」の注意点

自己評価の際はもちろんですが、もう一つ忘れてはならないのが評価する側のダニング・クルーガー効果の存在です。

例えば、ビジネスの場では、上司など他者から評価される機会も多くなっていますが、自分だけでなく、相手への評価もまた、正確に出来ているとは限らないのです。

そうした時に避けるべきは、「曖昧な基準で物事を判断しない/させないこと」でしょう。

このように、人間は物事を主観的に判断してしまうクセを持っていて、努力すればなんとかなるというものではない、無意識的なものなのです。

認知バイアスは意識することで改善は可能

このように、人間は物事を主観的に判断してしまうクセを持っており、これを心理学の世界では「認知バイアス」と呼びます。

では、この認知バイアスに成す術はないのかというとそうではなく、あくまでも「クセ」ですから、このクセを認識することで自分の認知を変えることは可能です。

ついついしてしまうクセを「自分は主観的に物事を判断してしまう癖があるな」と思い返して、一旦、立ち止まることが客観的な捉え方への第一歩となるでしょう。

ダニング・クルーガー効果が働いていることは伝えない方がいい

また、評価する側として気を付けて頂きたいのは、相手が必要な水準に達していない、能力が低いということを突きつけないということです。

「引き寄せの法則」に近い部分はありますが、「自分はできる、優秀だ!」という思い込みは、時に人が成長し、向上していく上で必要不可欠な場合があるからです。

そのため、これから成長しようとする人であれば、現実を伝えてしまうことによって、かえって悪循環になってしまうかもしれません。

あくまでも、自分から気づきを得られるよう周りが支援していくことが必要です。

「ダニング・クルーガー効果」にならないために

ダニングクルーガー効果を意識的に防ぐためには、いくつかの方法があります。

ではそれぞれ解説していきます。

評価基準を明確にする

必要とされている能力がどんなものか、評価基準はどのようなものなのかを把握しましょう。

例えば、必要とされている能力は「知識」なのか「技術」なのか、「知識」だとするならば「何点以上が必要とされているのか」といった具合です。

とはいえ、「必要とされている能力や評価基準なんて分からない…」という場合も多いでしょう。

そうした場合は勉強会や講座などからヒントを得てみる、日々の記録をしてみることもおすすめです。

ものごとを批判的に考える

ダニングクルーガー効果に陥るのを防ぐためには、「なにごとも疑ってかかる」ということが重要です。

例えば以下のように批判的に考えましょう。

  • 自分の実力は低いのではないか
  • 周りの人の方が優秀かもしれない

このように、ものごとをさまざまな角度から複眼的にとらえることができれば、ダニングクルーガー効果に陥りにくくなります。

ただし、根っこからダニングクルーガー効果に両足を突っ込んでしまっている人は、そもそもこのクリティカルシンキング(批判的思考)を持てないので、注意しましょう。

第三者の意見を参考にする

ダニングクルーガー効果は自身の考えに客観性を持てなくなる心理現象なので、「第三者の意見を借りる」というのが効果あります。

例えば、自分にとって利害関係のない相手であったり、自分にとって都合の悪いこともきちんと率直に言ってくれる相手がおすすめです。

ただ、あまりに主観的だとその人が「確証バイアス」に囚われている可能性があるので、相談できる相手は慎重に選ぶようにしましょう。

最後に

いかがでしたでしょうか。

自分の実力以上に高い自己評価をしてしまうダニング・クルーガー効果。

自分は思った以上に自分や周囲を客観視できていないのかも…と不安になった方も多いのかもしれません。

しかし、「人は自分を主観的に評価しがち」、「物事を実際より安易に捉えがち」と気づくことで、物事をより客観的に見てみようとするきっかけへとつながります。

また、自分や周囲を客観視することで新たに見えてくるものもきっとあるはずで、日々の仕事に活かせる点も多いでしょう。

そのため、まずは自分が求められている能力はどんなものなのか、その求められている能力の評価基準は何なのか、そこを明確にしていくことが大切です。

そうした行動の積み重ねが、自分を客観視することのできる姿勢を身につけることにつながり、成長をしていくものです。

このページを読んだあなたの人生が、
より豊かなものとなることを祈っております。