摂食障害|拒食や過食といった食行動の異常が続く病気

この記事を書いた専門家
長谷川
長谷川
国立大学卒業後、メンタルヘルス関連の専門的心理相談業務に従事。臨床心理学関連の論文執筆歴多数(保有資格:臨床心理士、公認心理士)

摂食障害とは

摂食障害とは、食事を極端に摂らなくなる「拒食」と過剰な量の食物を摂取してしまう「過食」といった食行動の異常が続き、心と体に影響が及ぶ精神疾患のことです。

背景には、痩せることに対する固執(やせ至上主義)や太ることへの恐怖(肥満恐怖)があり、食べたことを帳消しにするため、下記の「代償行動」が見られることが特徴です。

  • 食後に喉に指を入れて嘔吐する
  • 下剤を大量服用する
  • 過剰に運動してカロリーを消費する

このように、食行動が“異常”の様相を示すようになってきた場合、摂食障害として治療を要する可能性があります。反対に、ストレス発散のためのやけ食い、ダイエットのための食事制限といったように、あくまで一時的な場合であれば摂食障害とは診断されません。

また、「拒食」「過食」といった食行動の異常は、健康な体を維持するための栄養摂取の偏りに直結するため、下記のような二次障害を引き起こします。

  • 疲れやすくなる
  • 下半身がむくむ、髪の毛が抜ける
  • イライラする、集中力が低下する

このように、身体面はもちろん、精神面への影響がでます。特に、成長期に摂食障害となった場合、身長が伸びない、第二次性徴が正常に現れないなど、長期的な影響を及ぼすことがあります。

摂食障害の診断基準(DSM-5)

ここでは、摂食障害の診断基準についてDSM-5を意訳しつつ引用していきます。ほとんどの方はDSM-5をご存知ないと思いますので、最初に簡単に説明しますね。

診断基準となる「DSM-5」とは

DSM-5とは、アメリカ精神医学会発刊の『Diagnosis and Statics Manual of Mental Disorders(精神疾患の診断・統計マニュアル)』の第5刷を略したものです。

未知の部分が多い精神疾患や精神障害について、ほとんどの精神科医が、この「DSM-5」をスタンダードとして、診療や研究にあたっています。

摂食障害は、DSM-5の第10章「食行動障害および摂食障害群」にまとめられており、下記の障害が記載されています。

第10章「食行動障害および摂食障害群」
  • 異食症
    絵の具や石けん、髪の毛などの、通常は食べないものを食べてしまう
  • 反芻症/反芻性障害
    一度飲み込んだ食物を吐き戻して噛んだり再び飲み込んだりする
  • 回避・制限性食物摂取障害
    食べることに対して無関心となる
  • 神経性やせ症/神経性無食欲症
    拒食になる
  • 神経性過食症/神経性大食症
    過食と代償行動が生じる
  • 過食性障害
    代償行動のない過食が生じる

ここでは、一般的に摂食障害と称される後半3つの診断基準について、DSM-5の記述に沿って紹介します。専門用語が多いため、わかりやすく意訳してお示ししています。

  • 神経性やせ症/神経性無食欲症
    拒食になる
  • 神経性過食症/神経性大食症
    過食と代償行動が生じる
  • 過食性障害
    代償行動のない過食が生じる

では見ていいましょう。

神経性やせ症/神経性無食欲症の診断基準

神経性やせ症/神経性無食欲症の診断基準は下記の通りです。

A. 必要以上にカロリー摂取を制限しており、体重が、年齢・性別に見合った体重の正常範囲の下限を下回っている

B. 体重が正常範囲の下限を下回っているにもかかわらず、体重が増えることや肥満になることを極端に恐れ、体重増加を避けるための排出行動や代償行動などの異常行動を続けている

C. 適切な体重や体型に対する認識が歪んでおり、やせているにもかかわらず太っていると悲観したり、体重の増減によって自己評価が極端に左右されたり、やせすぎたことで生じた心身への不健康な影響や危険の認識が著しく乏しい

引用元:DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル

「神経性やせ症/神経性無食欲症(以下、拒食症と記載)」は、基準Aはもちろんですが、基準B(太ることへの強い恐怖)と基準C(体重や体型に対する認識の歪み)が特徴的です。

基準Aについては、BMI(体重(kg)/身長(m)の二乗)18.5~17.0kg/m2未満がひとつの目安になります。子どもについて数値的な目安を示すのは難しいですが、健康なやせの場合、標準体重の70~80%未満になることはほとんどありません。

ごく短期間に急激な体重減少が見られる場合、数値的には標準体重範囲であっても、この基準を満たすとみなすことがあります。BMIが17.0kg/m2未満、体重が標準体重の65%以下は最重度とされ、すぐに入院加療が検討されます。

基準Bにある異常行動には、排出行動や代償行動のほか、ティッシュペーパーなどのカロリーのないものを口にする異食行動などがあります。

神経性過食症/神経性大食症の診断基準

神経性過食症/神経性大食症の診断基準は下記の通りです。

A. 以下の(1)(2)の両方を満たすような過食がある
(1)他とはっきり区別される時間帯に、ほとんどの人がその状況でその時間内に食べる量よりも明らかに多い食物を食べる
(2)他とはっきり区別される時間帯に、食べることをやめることができない、あるいは、食べるものの種類や量を抑制できないという感覚がある
B. 体重の増加を防ぐために、不適切な排出行動や代償行動を繰り返し行っている
C. 基準Bのような不適切な行動が最低週1回は起こるような状態が3ヶ月以上続いている
D. 適切な体重や体型に対する認識が歪んでおり、体重の増減によって自己評価が極端に左右される
E. 神経性やせ症/神経性無食欲症の一環として起こっているものではない

引用元:DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル

「神経性過食症/神経性大食症(以下、過食症と記載)」は排出行動や代償行動をともなうため、体型的にはやせていることが少なくありません。

ただし、症状が慢性化するなかで、食べたいという欲求や衝動を抑制しようとする努力ができなくなり、排出行動や代償行動なく過食だけを続け、それが体重や体型に現れてしまっている場合もあります。そのため、過食症にBMIや体重で示される数値的目安はありません。

食べたいという欲求や衝動の抑制不能によって生じる過食(基準A)、排出行動や代償行動がともなうこと(基準B)、体重の増減によって自己評価が著しく変動すること(基準D)が特徴的です。基準Cにあるように、「他とはっきりと区別される時間帯」があります。少しずつの量をだらだらと食べ、一日のトータルでは大量に食べているような場合、この基準Cには該当しません。

基準Aにあるような、食べたいという欲求や衝動は非常に強烈で、炊飯器に残っている大量のごはんや冷蔵庫のなかにあるものをすべて平らげてしまったり、まだゆでていないパスタをそのまま食べてしまったりするようなことすらあります。

過食性障害の診断基準

過食性障害の診断基準は下記の通りです。

A. 以下の(1)(2)の両方を満たすような過食がある
(1)他とはっきり区別される時間帯に、ほとんどの人がその状況でその時間内に食べる量よりも明らかに多い食物を食べる
(2)他とはっきり区別される時間帯に、食べることをやめることができない、あるいは、食べるものの種類や量を抑制できないという感覚がある
B. 基準Aのような過食は、次の(1)~(5)のうち3つ以上をともなっている
(1)通常よりもかなり速く食べる
(2)苦しいくらい満腹になるまで食べる
(3)身体的に空腹を感じていないときに大量に食べる
(4)自分がたくさん食べていることに恥ずかしさがあり、誰にも見られないようにひとりで食べる
(5)食べた後に自己嫌悪や抑うつ気分、強い罪責感を抱く
C. 過食することに対する心理的苦痛がある
D. 基準A基準Bのような過食が最低週に1回はあるような状態が3ヶ月以上続いている
E. 神経性やせ症/神経性無食欲症や神経性過食症/神経性大食症の一環として起こっているものではなく、神経性過食症/神経性大食症のような代償行動はともなっていない

引用元:DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル

「過食性障害(以下、大食症と記載)」の基準Aは過食症の基準Aと同じです。異なるのは、過食症にはある排出行動や代償行動(基準B)が、大食症にはないことです。

摂食障害の症状のメカニズム

ここでは摂食障害の症状のメカニズムについて以下の順番で解説していきます。

  • 1)発症のリスク要因・環境
  • 2)症状の起こりやすさと経過
  • 3)症状の起こりやすい場面

では見ていきましょう。

1)発症のリスク要因・環境

拒食症、過食症、大食症(以下、この3つを摂食障害と表記)は、社会・文化的要因、心理的要因、また生物学的要因が複雑に絡み合って生じるものと考えられています。

これまで摂食障害を発症しやすい人の特徴として、不安の高さや完全主義(完璧主義とほぼ同義)、自己評価の低さが指摘されてきました。しかし、これらの特徴を持っていたから摂食障害となったのか、摂食障害となったからこのような心理状態になったのかは明らかになっていません。

例①痩せていることが良いとされる価値観

拒食症と過食症は、体重や体型への強い執着や現状への不満を特徴とします。

これには「やせていることをよいこととし、太っていることを蔑視する」といった現代先進諸国で共有されている社会的価値観の影響が推測されます。

例②低体重が有利になる競技選手やモデル

摂食障害は、体操やフィギュアスケートなどの低体重であることが有利になる競技の選手、ファッションモデルにもよく見られており、痩身をよしとする価値観の影響が指摘されています。

例③幼少期の性的虐待

摂食障害は幼少期の家庭環境からも影響を受けます。なかでも、幼少期に性的虐待を受けた経験は拒食症・過食症の発症と関連が深いと言われています。

摂食障害は男性より女性に多く見られ、患者の9割が女性とする報告もあります。性的虐待を受けることにより、ふっくらとした女性的な体に変容していくことへの恐怖や拒絶が生じ、それが摂食障害を誘発するのではないかと指摘されています。

また、これら以外にも、両親の不和や両親からの過剰な期待や過保護、家族のダイエットなどが発症に影響している可能性があります。

2)症状の起こりやすさと経過

摂食障害は思春期から30歳ごろまでの間に発症することが多く、思春期以前や40歳以降に発症することは稀です。大食症よりも過食症、過食症よりも拒食症の方が若年に発症する傾向があり、拒食症は10代、過食症は20代で発症する例が多いと言われています。

大食症の発症時期についてはあまりよくわかっていません。拒食症と過食症の症状は正反対のように見えますが、その根底にあるのはどちらも“やせ願望”や“肥満恐怖”で、体重の増減によって自己価値観が極端に左右される点も共通しています。

そのため、拒食から始まって拒食症となり、やがて排出行動をともなう過食症へと移行する事例がよくあります。過食症から拒食症に移行することもありますが、こちらはさほど多くはありません。

大食症から拒食症や過食症に移行する例はあまり見られませんが、過食症になった後に代償行動を行わなくなり、大食症に移行する例は散見されます。

拒食症の経過

拒食症では食べ物を摂らなくなるなりますが、その一方で、食べ物に対する執着は際立ち、むしろほとんどいつも、食べ物に関する思考に支配されてしまっています。

たとえば、ひとつひとつの料理や食物のカロリーを調べ上げて細かくカロリー計算したり、甘いものやカロリーの高いものをたくさん食べることを空想したりします。

実際には食べない料理のレシピをたくさん収集してファイリングしたり、食べもしない食料を隠れて溜め込んだりすることもあります。摂食障害の低栄養状態は、作り出された飢餓状態でもあります。

飢えたとき同様、食べ物のことで頭が占められ、イライラしやすく、集中力が低下します。皮膚は乾燥して荒れ、髪の毛は抜け、体毛が薄くなる代わりに背中のうぶ毛が濃くなります。健康的な美しさとはほど遠い状態になりますが、“やせ至上主義”の思考になってしまっているため、やせてさえいれば美しいと感じます。

誰かにそれは不健康であるとか、かえって醜いなどと指摘されると、むきになって怒ってしまいます。次第に世間と価値観の隔たりが大きくなり、人間関係に孤立してしまいます。するとますますやせることだけを心の拠り所にするという、悪循環が成立してしまいます。拒食症だという自覚症状が芽生えることは稀で、めまいや無月経など、体の症状をきっかけに受診することが通例です。

拒食症は極端に食べ物を摂らなくなるため、急激にやせ、体の栄養状態も悪化します。発症年齢が若い傾向にあることもあり、体の発達成長に否定的影響を及ぼします。無月経や骨粗しょう症は典型的な身体症状です。

それ以外にも、低血圧、低体温、筋力低下、心拍数低下など、生命維持に危険が及ぶ状態に陥ることがあります。治療によって食行動が改善した後も、低栄養状態が続いたことによる身体への悪影響が残ることがあります。

過食症の経過

過食症は、大量の食物摂取と代償行動を特徴とします。過食症の場合、代償行動の大半は「嘔吐」となることが多く、概ね以下のような経過を辿ります。

  1. 食べ過ぎを嘔吐(代償行動)で帳消し
  2. 嘔吐後の安心感や達成感が癖になり、継続
  3. 排便の不安から“下剤”を使用し始める
  4. 下剤に依存してしまい、乱用が始まる

それぞれを軽く解説していきます。

②食べすぎを帳消しにするため嘔吐(代償行動)

最もよく見られる代償行動は、嘔吐による排出行動です。道具を使って吐こうとすることもありますが、多くは自分の指をのどに突っ込んで嘔吐を誘発させます。

②嘔吐後の安心感や達成感が癖になる

最初は食べ過ぎてしまったことを帳消しにするために嘔吐しますが、次第に、嘔吐することが目的となり、あえて嘔吐しやすいものを大量に食べるようにもなります。嘔吐した際の“これでもう太らない”という安心感やうまく嘔吐できた達成感がくせになってしまうのです。

自分の指をつかって嘔吐をすると、手の甲が強く前歯に押しつけられる形になるので、手の甲の中指の付け根の下あたりにできる“吐きだこ”は、過食症を発見するヒントになります。また、何度も胃液が喉を通ることで、喉が荒れ、食道から出血することもあります。

③下剤を使い体を空っぽにしたがる

そして、嘔吐と組み合わせて行われるようになるのが、下剤を使った排出行動です。最初から下剤を使う人もいますが、嘔吐をしているにもかかわらず排便があることが不安になり、体のなかをさらに空っぽにするために下剤に手を出すのが通例です。

④下剤に依存してしまい、乱用が始まる

また、服用量も徐々に増えていく傾向にあります。下剤を日常的に服用すると、排便をうながす腸管運動が鈍くなり、下剤なしでの自然な排便が障害されます。身体的にも心理的にも下剤に依存するようになり、乱用が始まってしまいます。


また、上記で解説した「嘔吐」や「排泄」以外にも、「極端な絶食」「過剰な運動」といった代償行動がみられるケースがあります。どちらも、体重の増加を防ごうとする行動です。

過食症の人の体重は、標準体重の範囲内にあることがほとんどです。極端に痩せすぎている人、肥満の人はあまり見られません。拒食症の人ほどの低栄養状態にはならないにもかかわらず、月経不順や無月経になることがあります。理由ははっきりしていません。

過食はダイエットの最中やダイエット後に発症することが通例です。拒食症から過食症に移行しやすいのも、このためです。

乱れた食生活は数年間続き、慢性化したり回復と過食を繰り返したりします。長期的には多くの事例で症状が落ち着いていきますが、代償行動のない大食症に移行し、体重が漫然と増加していってしまう場合があります。

大食症の経過

拒食症や過食症はダイエットの最中やダイエットの後に始まりますが、大食症の場合、発症の後にダイエットが行われるという特徴があります。

拒食症や過食症よりも自然治癒しやすいと考えられています。ただ、経過は長く、過食とダイエットの失敗を繰り返し、慢性化していく場合があります。

3)症状の起こりやすい場面

「拒食症」や「過食症」は、いつどこでも、目の前に誰がいるかはほとんど関係なく起こります。言い換えれば、それほど自己コントロールや理性を失ってしまうのが拒食症や過食症の特徴ということなのです。

一方で「大食症」は、過食前後に意識や理性がはっきりしていることが通例で、大量に食べることに恥ずかしさを抱きます。そのため、外出時にはさほど食べないか通常の量だけを食べ、家にいるときにひとりで過食することが通例です。

拒食症や過食症が食べ物や太ることに執着するのに対し、大食症は食べるという“行動自体”に執着する傾向があります。

摂食障害の代表的な治療方法

食行動やそれに伴う身体症状の改善(体重の適正な増加や月経の回復)の改善を目的とした心理教育と栄養指導が行われます。

心理療法では、体重に対するこだわりや体重の増減に左右される誤った自己評価などを修正するために、認知行動療法などが行われます。

健康な状態を理解するための心理教育

心理教育は、病気に対する理解を深め、治療に前向きに取り組んでいくための教育的支援で、特に拒食症の人にとって重要です。拒食症の治療では、栄養状態を改善し、適切に体重を増やしていくことになります。

ところが拒食症の人は、不健康にやせすぎた状態をよい状態と認識してしまっているため、治療によって太ることを恐れ、それを避けようとしてしまうのです。

心理教育によって、低栄養状態が心身にどのような悪影響を及ぼしているのかを知り、真に健康で美しい状態とはどういう状態なのか、理解していくプロセスが必要になります。

例えば、急激な体重減少などで入院加療している場合、“○○kgになったら点滴(高カロリー輸液)を外せる”“○○kgになったら退院できる”など、体重の増加によってごほうびが得られるように目標設定することがあります。

この目標が自分にとってどういう意味があるのかを理解することが、退院後の悪化や再発の予防につながります。

認識の歪みを修正する認知行動療法

拒食症や過食症の発症背景には、“やせ至上主義”や“肥満恐怖”があります。症状が進行すると、体型に関する認識が歪んでいきます。他者から見ればやせているのに、鏡に映る自分に対し、“ここがまだ太っている”“こんなにお肉がついていて醜い”などと認識してしまうのです。

BMIや体重がやせ気味あるいはやせ過ぎを示していても、ちょっとでも体重が増えると自信をうしない、不安に襲われます。健康的で活力がある美しさを美しいと認識できるよう、認知行動療法などを用いて、自己イメージの修正を図ります。

過食症や大食症の改善は、食べたいという欲求や衝動に対処し、うまくコントロール方法を獲得する必要があります。そのためにはまず、いつどのようなときに欲求や衝動が高まるのか、どのようなときにはその欲求や衝動が収まってくれるのかなど、自分の傾向を把握します。

次に、欲求や衝動をうまく抑えられた場面や、いつもよりも欲求や衝動が強くなかったときについて情報収集し、それをヒントに対策を考えていくことが大切です。

欲求や衝動が高まるときやうまく抑えられなかったときに注目するのは、自己嫌悪や自責感を高めかねないため、あまり有効とは言えません。

摂食障害への薬物療法

摂食障害に直接作用する薬物はありません。強い肥満恐怖を和らげる目的で、オランザピンなどの非定型抗精神病薬が用いられたり、過食の衝動を抑えるためにSSRI(選択的セロトニン再取込み阻害薬)などのうつ治療薬が用いられたりすることがあります。

薬物療法だけで症状がよくなることはなく、慢性服用による悪影響もあるため、薬物療法は期間を限定して行い、徐々に心理教育や心理療法に比重を移していきます。

摂食障害のセルフケアと再発予防

体を適切な栄養状態に保つため、規則的な食習慣を身に付け、維持していくことが大切です。

また、体重の量り方にも注意が必要です。最近はレコーディングダイエットなど、こまめに体重を量ることが体重管理につながるという考え方も散見されます。

しかし、摂食障害についてのセルフケアと予防という観点からは、どんなにこまめでも、1日1回、理想は1週間に1回程度の体重測定にとどめることをおすすめします。

体重は、食事はもちろん、ちょっとした水分補給やでも変動します。そういった細かな変動まで気にするようになると、それが不安やストレスを生み、摂食障害の発症につながりかねないからです。

摂食障害への周囲のかかわり方

摂食障害は、本人がそうだと気づきにくいものです。周囲が異変を察知し、早期発見・早期治療につなげることが大事です。以下のようなものが異変察知のポイントになります。

  • 短期間で急激に体重が減少する
  • 体重の増加をこわがったり怯えたりする
  • 1日何回も体重計にのって増減を気にする
  • 低カロリーなものまで細かくカロリーを気にする
  • 食べ物を小さく切るなどしてなかなか口に運ばない
  • 食事をしていないのに食べていると嘘をつく
  • 食べ物を自分の部屋に隠したりトイレに流して捨てたりする
  • 大量のスナック菓子や麺類を万引きする
  • 食事の後に必死になって激しい運動を続ける
  • 食事中や直後に頻繁にトイレに行ったり吐いたりしている
  • 下剤や利尿剤を買い込んでいる

本人に受診や治療をうながす際、「摂食障害だから」「やせすぎだから」と言っても、なかなか納得してもらうことができません。それよりも、「最近よくふらついているから」「疲れやすくなっているみたいだから」など、体重や体型とは直結しないような体の変調を心配しているという言葉で受診を提案する方がうまくいきます。

摂食障害、なかでも10代で発症する拒食症は、親御さん初めとした家族との関係が病気に影響していることが多くあります。学校などでの人間関係も影響します。家族や周囲の重要な関係者も、治療の協力者として、専門医やカウンセラーの助言を受けながらサポートしていくことが大切です。