てんかん|突然意識を失って反応がなくなる発作を起こす慢性的な病気

この記事を書いた専門家
長谷川
長谷川
国立大学卒業後、メンタルヘルス関連の専門的心理相談業務に従事。臨床心理学関連の論文執筆歴多数(保有資格:臨床心理士、公認心理士)

てんかんとは

てんかん(Epilepsy)とは、口から泡をふいて突然意識を失って反応がなくなるなどの「てんかん発作」を繰り返し起こす脳の病気のことです。

脳内の神経細胞が過剰に興奮することよって意識障害やけいれんなどが発作的に起こる慢性的な病気で、子どもから大人までどんな年齢にも見られます。この病気の存在は紀元前から知られており、今も100人に1名はいるくらいには、ありふれたものです。

以前までは、原因がわからなかったことと、全身をガクガクさせて泡をふきながら白目になって倒れるという発作症状のために、非常に恐ろしいものとして捉えられてきました。地域によっては、悪霊や悪魔がついたからだと伝承されていたことが知られています。

てんかんの種類

てんかんは、発作の起き方によっていくつかの種類に分類されています。大きくわけると、一気に脳全体が興奮する「全般発作」と、脳の一部分が興奮する「部分発作」の2つです。

▼全般発作:一気に脳全体が興奮

  • 強直間代発作
  • 脱力発作
  • 欠神(けっしん)発作
  • ミオクロニー発作

▼部分発作::脳の一部分が興奮

  • 単純部分発作(焦点意識保持発作)
  • 複雑部分発作(焦点意識減損発作)

以上が代表的なものです。順に解説します。

主な全般発作

強直間代(きょうちょくかんだい)発作

急に意識をなくして倒れ、手足をつっぱらせた後に全身をガクガクとけいれんさせる発作です。口からは泡をふき、眼は白目をむきます。

手足を突っ張らせる発作を「強直発作」、体をガクガクとけいれんさせる発作を「間代発作」と呼びます。強直発作と間代発作は通常、数分でおさまります。

一時的に呼吸がとまることもありますが、発作だけで命が危機にさらされることはありません。発作後に自然睡眠(終末睡眠)と呼ばれる眠りに移行する場合もありますが、30分~1時間くらいで、その後は普通の生活に戻ることができます。

ただ、場所を選ばずに急に発作が起きてしまうため、当たり所が悪かったり、発作直後にもうろうしたまま危ないところに出てしまったりする危険があります。また、けいれん発作中に自分で舌を噛んでしまう場合があるため、それを防ぐためにタオルなどをすぐに噛ませることが必要です。

脱力発作

全身の筋肉の緊張が低下・消失し、くずれるように倒れてしまう発作です。発作の持続時間は数秒以内とごく短いため、発作と気づきにくい傾向にあります。

欠神(けっしん)発作

欠神発作は、何か作業や会話の途中であっても、急に意識をうしない、ボーッとしてしまう発作です。持続時間は5~15秒ほどで、発作中は呼びかけても応答がありません。

発作が終われば、そのまま元の作業や会話に戻ることができます。けいれんを起こすことはありません。ただの注意怠慢などと誤解されることが多い発作です。子ども、特に女児に多い発作です。

ミオクロニー発作

ミオクロニー発作は、全身あるいは手足、体、顔など、どこか一部分の筋肉が一瞬ピクッと収縮する発作です。瞬間的な症状のため、自覚があることは少ないです。

瞬間的でも筋肉が不随意に収縮してしまうため、持っていたものを落としたり、転んでしまったりします。発作が激しい場合には、持っているものを投げ飛ばしたり蹴飛ばしたりしてしまうことがあります。

発作は1回だけで終わることもあれば、数回連続して起こることもあります。光によって誘発されることもあります。思春期に発症する若年ミオクロニーてんかんでは、朝起きてすぐに起きる手のミオクロニー発作が特徴的です。

主な部分発作

単純部分発作(焦点意識保持発作)

単純部分発作は、意識を失うことのない発作で、どこに発作が生じるかによって、症状が異なります。顔や手足なら、軽くけいれんしたり、しびれたりします。

知覚に症状が出ると、まぶしさを感じたり、あるはずのないものが見えたり、いやな味を感じたり、腐ったような臭いを感じたり、変な音が聞こえたりします。

腹部からこみ上げるような吐き気を感じる、鳥肌が立つようなこともあります。昔のある場面の記憶が思い浮かんでなつかしい感じがしたり、わけもなく恐怖や不安に襲われたりする場合もあります。

複雑部分発作(焦点意識減損発作)

複雑部分発作は、意識がなくなる発作です。欠神発作と同じように、それまで行っていた動作が急に止まり、呼びかけても応答がなくなります。大人のてんかんで最も頻度が高いものです。

持続時間はより長く、数十秒~数分間続きます。発作中に、口をモグモグ・クチャクチャさせたり、手足をモゾモゾ動かしたり、片方の手を不自然な格好につっぱらせたりすることもあります。発作後、動作がちぐはぐになったり、しばらく的確な行動がとれなくなったりする場合があります。

二次性全般化発作 最初は単純部分発作や複雑部分発作のように部分的に発作が起こりますが、次第に発作が全身に広がり、強直間代発作と全く同じような状態になる発作です。

てんかんの診断基準

てんかん発作がある場合、てんかん発作国際分類に従って発作の発作型を決めます。

実際に出ている症状だけではなく、脳波にてんかん波(徐波や棘波)が見られるかなどの検査結果を踏まえて決められます。

てんかんの代表的な治療方法

てんかんへの薬物療法

治療の基本は薬物療法で、てんかん発作が起きないように脳の異常興奮を抑える抗てんかん薬が用いられます。抗てんかん薬には種類があり、発作の種類によって有効な薬が異なります。

抗てんかん薬の多くは、脳全体の働きを抑える作用があり、眠気やふらつきなどの副作用が出現する場合があるので、医師と相談しながら飲む量を調整していくことが必須です。

てんかんへの手術療法

発作が起こっている脳の部位が特定でき、抗てんかん薬がうまく効かない場合、手術療法が検討されます。てんかんが起こっている脳の部位によって、手術できるかどうかが慎重に判断されます。

手術では、脳の一部を切除する場合と、脳梁という神経の束を切り、発作の波が伝わらないようにする場合があります。

てんかんへの環境調整

てんかんのなかには、音や光など、外からの刺激が発作の始まりになっている場合があります。

その場合は、そういった激しい刺激に接しなくてもいいように、生活習慣や環境を調整し、発作のきっかけを少なくしていく工夫が求められます。

てんかんのセルフケアと予防

睡眠不足やストレス、過労、飲酒は発作を誘発するリスクがあると考えられています。また、薬物治療を行っている場合、薬の飲み忘れが発作の引き金になる可能性があります。日常的な生活習慣と適切な服薬管理を行うことで、発作をできるだけ予防していくことが大切です。

てんかんへの周囲のかかわり方

てんかん発作は、本人にその自覚がない場合が多くあります。的確な診断や治療には、どのように発作が起こっているかの情報が不可欠です。

発作の様子をメモしたり、動画で撮影したりして、医師の診断を助けることが大切です。また、発作のなかには、単なる怠けやおっちょこちょいと誤解されてしまうような発作もあります。

てんかん発作の疑いがある場合には、早めに医療機関を受診します。てんかん発作には様々な種類があるため、本人だけではなく、周囲も本人のもつてんかんについて理解を深めることが大切です。

参考文献