外発的動機付けとは|結果の賞罰を目的として行動が誘発されるモチベーション理論

外発的動機付けとは、手に入れたい外的報酬(賞罰)を目的として、それに至る行動が誘発されるような動機付けのことを指します。

あなたも以下のような経験があるのではないでしょうか?

「努力したら昇進するから頑張ろう」
「宿題やったらお小遣いをもらえるから頑張ろう」

こういったモチベーションこそが「外発的動機付け」と呼ばれるものです。

いわゆる「飴と鞭」で、ビジネス面で例をあげると、以下のような状況が当てはまります。

  • 昇進するために努力する
    →「昇進する」ことが外的報酬
  • 上司に怒られないように営業する
    →「怒られるという罰を受けなくて済む」ことが外的報酬

では、そんな不思議な力を持つ「外発的動機付け」の影響と事例について、さらに詳しくみていきましょう!

【結果vs過程】外発的動機付けと内発的動機付けの違い

外発的動機付けを理解する上で、対称の意味となる「内発的動機付け」の存在は欠かせません。

この「内発的動機付け」とは、結果として得られる賞罰や成果のためではなく、それに向かっていくプロセスそのものや自身の内的報酬(充実感や自己実現)が動機付けになっている状態のことを指します。

例えば、

  • もっとスキルをあげたいから努力する
    →「スキルアップの達成感」が内的報酬
  • 顧客の笑顔が見たいから営業する
    →「笑顔を見ると嬉しいという充実感」が内的報酬

などがその代表例です。

この内発的動機付けは、活動することそのものがモチベーションとなるので、自発的にその活動量が増えていくことが特徴です。

エドワード・L・デシ(Edward L. Deci)によって実証

1970年代以降に、エドワード・L・デシ(Edward L. Deci)という心理学者が、「外発的動機付け」と「内発的動機付け」の関係性を理論化したことが、世に広まるきっかけとなりました。

デシが行った有名な実験があります。

学生を2つのグループに分け、当時流行っていた面白いパズルを解かせるまでは同じなのですが、それぞれに違った条件を提示します。

2つのグループ

<Aのグループ>
パズルを解くと金銭的報酬(1ドル)を受け取れる

<Bのグループ>
バズルを解いても金銭的報酬(1ドル)は受け取れない

その上で、AとBの両方のグループの学生を集め、30分間パズルを解かせます。

30分間経過した後、監督官が「これで実験はおしまいです。データ入力作業があるため離席します。」と言い残し退室することで、残された学生たちに自由時間を与えました。

彼らの机の上には、パズルのほかに、雑誌なども置かれていて、好きに時間を過ごせます。

もちろん、ぼーっと空想にふけっていることもできるでしょう。

実は、この「自由時間に何をするのか」が本当の実験だったのです。

結果として、2つのグループに明らかな差が出ました。

1ドルを受けとれないBのグループの学生は比較的長くパズルに取り組んだのに対し、1ドルを受けれていたAのグループは、あまりパズルに取り組まなかったのです。

これは、パズルをやる理由を、金銭報酬(外発的動機)にすり替えられた事が原因です。

元々やってみれば面白いパズルであったとしても、報酬がないとやらなくなってしまうのです。

外発的動機付けは「アンダーマイニング効果」に注意

上の実験結果にあったように、外的報酬には副作用があることがわかっています。

このような、「内発的に動機付けられた行動に対して、外的な報酬を加えることで元々の動機付けが低下してしまう」現象を「アンダーマイニング効果」と言います。

例えば、以下のような副作用があるでしょう。

外発的動機付けの副作用

・本来の目標を見失ってしまう
・報酬がなくなるとモチベーションが急落
・報酬の大きさに慣れてしまい、モチベーション維持が難しい

これは、もともと「行動すること自体が報酬」であったはずなのに、外的な報酬を加えることで、「外的報酬を得ることが目的」となってしまったために起こる現象とされています。

このように外的報酬には、元々あるモチベーションを上書きして潰してしまうほどの副作用(悪影響)があるのです。

アンダーマイニング効果の身近な事例

日常で例をあげると「勉強」が代表的でしょう。

本来、知識が増える過程が楽しいはずなのに、宿題として課されてしまうことで「怒られないために、宿題をやる」といった外発的動機にすり替わってしまうのです。

そして、宿題がないと勉強をしなくなります。

アンダーマイニング効果によって失敗した事例:Project EXCEED

2015年、日本実業団陸上競技連合が一般社団法人化し、「Project EXCEED」を開始したときの事例です。

公益財団法人日本陸上競技連盟が認める「マラソン大会で日本記録を更新したら報奨金1億円」という大きな外的報酬が呈示され、多くのランナーが参加しました。

次々に日本記録が更新されたいったのは記憶に新しいところでしょう。

ところが、外発的動機付けは強力な一方で、アンダーマイニング効果も働いてしまったのです。

「Project EXCEED」の報奨金も、事前に設定していた期限が来る前に報奨金が底をつき、日本記録を更新しても満額の報奨金をもらえない選手が出てしまいました。

結果として、期待していた報酬がもらえなくなったことで残念に感じ、挑戦をするランナーのモチベーションが下がったことは言うまでもありません。

本来なら、例えば、

  • 日本記録保持者になれるという外的報酬
  • 一番でゴールテープを切る喜びといった内的報酬

だけでも相当嬉しいものであったはずです。

これは、報奨金(1億円)という強力な外的報酬が呈示されたことで、元々あった内発的モチベーションが相対的に低くなってしまったことが原因です。

このように、外発的動機付けが強力になればなるほど、元々あったモチベーションを上書きし、潰してしまうだ強力なアンダーマイニング効果となるのです。

外発的動機付けは「クレスピ効果」に注意

クレスピ効果とは、外的報酬量の変化によって意欲が変化する心理現象のことを指していて、特にマイナス効果である、

「それまで一定だった報酬が減少すると、その後の意欲が顕著に低下する」現象が非常に有名です。

例えば、これまで時給1,000円で働いていたのに、ある日突然、「明日から時給990円」と言われたら、実質1%しか給料が下がっていないのに、モチベーションはそれ以上に下がるのです。

そして、一度落ちたモチベーションを戻すためには、最初以上の報酬量が必要なこともわかっています。

このように、外発的動機付けとして一度報酬を与えてしまうと、その報酬量を下げた場合に大きなデメリットがあるので注意するようにしましょう。

外発的動機付けは短期集中決戦に活用するべき

ここまで説明してきたように、外発的動機付けは、長期的な動機付けではなく「短期的な決戦」に大いに向いています。

例としては、

  • 同僚や部下を短期的に奮起させる
  • 一念発起して転職活動を始めようとする

のような場合です。

なお、外発的動機付けをしてしまったあとに、そのモチベーションを長期的に維持し続けるためには、以下の2つの方法があります。

(1)内発的動機付けを高めて、外的報酬の有無に左右されないようにする
(2)報奨金制度を継続して、効果が薄れる度に金額を増やして、外発的動機付けを高める

とはいえ、(2)は指数関数的に必要な金額が増えていくため、現実的ではないでしょう。

そのため、(1)にあるような、「外発的動機付けから内発的動機付けへの移行」ができれば、それが一番効果的でしょう。

機能的自律性|外発的動機付けから内発的動機付けへの移行

元々は外発的動機付けによる行動であっても、やっているうちに内発的動機付けに変化していく現象を「機能的自律性」と言います。

例えば、

  • やっているうちに、仕事の楽しさに気づいた
  • 勉強するうちに興味が広がってどんどん調べていた

のようなことがあげられます。

また実際に、2014年のロイファナ大学の研究でも、人は時間をかければかけるほど、情熱が高まってくることがわかっています。

これは、「グロウス・パッション」と呼ばれる心理現象で、人の「情熱」は今までかけてきたリソース(時間やお金)の量に比例する、というものです。

そのため、最初は外発的動機付けを活用しながらうまく導入し、それを次第に内発的動機付けへ移行させていくことができれば、モチベーションが途切れることはなくなります。

この切り替えが綺麗にうまくできた状態が、一番効率的かつ持続可能なモチベーションの持ち方と言えるでしょう。

最後に

ここまで、外発的動機付けの影響について説明してきましたが、いかがでしたでしょうか。

金銭的報酬などの外発的動機付けは、短期的にモチベーションを上げられることが大きなメリットですが、

ただ、長期的には続かないという「副作用」もあるので注意が必要です。

特に、人生で大切なものほど、短期努力で得られるものではなく、長期的に粘り強く進んでいくことで得られるものです。

そのため、目の前の魅力的な報酬によって、「本当に大切なものはなんだったのか」を見失わないように意識を傾ける必要があるでしょう。

このページを読んだあなたの人生が、より豊かなものとなることを祈っております。