錯誤相関とは
錯誤相関とは、とある二つの事柄に、本来は相関関係が存在しないものの、まるで相関関係があるように錯誤(思い違い)してしまう認知バイアスのことです。
たまたま、何度かタイミングが重なったり、統計上のデータ推移が重なったりした時に起こりやすいですね。例をあげてみましょう。
- 雨男、雨女
- 四葉のクローバーを見ると、幸せになれる
- 満月の夜には、不吉な事が起きる
- インターネットの普及が、自殺率を上げている
このように、本来は全く相関していなくても相関、あるいは因果関係を結びつけてしまう傾向が錯誤相関です。特に、その事象同士が、記憶に浮かびやすい出来事(例:珍しい、ネガティブ)であった場合に発生しやすいとされています。
補足:認知バイアスとは
認知バイアスとは、常識や固定観念、また周囲の意見や情報など、さまざまな要因によって、誤った認識や合理的でない判断を行ってしまう認知心理学の概念です。
関連用語:
第三の変数で説明できる錯誤相関は「擬似相関」という
錯誤相関を、隠された「第三の変数」で説明できる場合を「擬似相関」と言います。文字通り、擬似的な相関関係があるということですね。
- 「アイスの売上」と「溺死事故数」
→どちらも「気温」に相関します - 「体重減少量」と「朝の寝覚が良い」
→どちらも「健康意識」に相関します
このように、統計的な相関が、因果関係を意味するわけではありません。データを解釈する際には、常にその背後にある要素を慎重に考えることが重要です。
錯誤相関の実証実験
錯誤相関は、ハミルトン&ギフォードによって1976年に提唱されました。
それ以降、広く知られている実証実験は、有名なもので2つあるので、順番に紹介していきます。
では、それぞれ見ていきましょう。
錯誤相関の実験#1
ハミルトン&ギフォード
この実験では、事前に『少数派』と『多数派』のグループを作り、2つのグループの被験者に『特定の行動内容(下記)』を記述した文章を提示しました。
- 記述された行動内容は「ポジティブな行動」と「ネガティブな行動」の2種類
- 「ポジティブな行動」は「ネガティブな行動」の2倍多く提示され、どちらのグループも同じ割合
- 行動内容が記述された文章を提示される順番は無作為
そして、文章を全て提示した後、『少数派』と『多数派』の両グループに「ネガティブな行動の記述が何回提示されたか」を尋ねたところ、少数派のほうが「ネガティブな行動の記述が多かった」と答えたのです。
ここから、少数派グループ、つまり『多数派である安心感を持たないグループ』は、ネガティブな内容が印象に残りやすい事が説かれ、『少数派、ネガティブ』という印象に残りやすい事象が、無意識に結びつきやすくなる、とまとめられています。
参照:Illusory correlation in interpersonal perception: A cognitive basis of stereotypic judgments.
錯誤相関の実験#2
Chapman&Chapman
錯誤相関と提唱してはいないものの、1971年にChapman&Chapman(コンサルティングファーム)が行った実験も興味深いものです。
この実験では「精神疾患に罹患した患者」を架空で作り上げ、その患者が描いた「人物の絵」と臨床診断結果をセットにして被験者に見せ、「どれくらいおかしな目」をしているかを回答してもらいました。
すると被験者の多くが、「患者が描いた絵のほうが、患者でない人物が描いた絵と比べておかしな目をしている」と回答したのです。
本来であれば「人物の絵」と「精神疾患にかかっているという情報」は全く関係がない(そもそも架空ですからね)のですが、「精神疾患を患っている患者」という少数派&ネガティブな属性と、「おかしな目」という印象に残りやすい事象が紐づけられる結果になったのです。
参照:Genesis of popular but erroneous psychodiagnostic observations.
錯誤相関の具体例
ここでは、日常生活でも起こりやすい錯誤相関の事例について、ご紹介していきます。
- ジンクス:雨男、雨女、四葉のクローバー
- 血液型
錯誤相関の具体例#1
ジンクス(雨男、雨女、四葉のクローバーなど)
雨男、雨女、四葉のクローバーといった「ジンクス」は総じて、錯誤相関の主たる例です。
例えば、子供のころ運動が苦手だった人が「運動会の日に限って晴れてしまうこと」を『晴れ男』と憂いているのを聞いた、もしくは感じた経験はないでしょうか。
このようなジンクスも錯誤相関によるもので、当然ながら、運動会だろうがそうでなかろうが、天気には一切関係はありません。
自分にとって「特別なイベントがある」というまれな場面で「期待した天気と異なる」というネガティブな事象が、無関係にもかかわらず相関があるように紐づけられてしまった例です。
錯誤相関の具体例#2
血液型
いわゆる「あの人は○型だから、××だよね」と、血液型と性格に関連性を持たせてしまうことも錯誤相関の一種です。
この手の診断を信じてしまうのは、錯誤相関だけでなくバーナム効果といった認知バイアスが働いた結果でもありますが、血液型と性格の関連性には、全く科学的根拠がありません。
また、日本で最も少ない血液型はAB型、次いでB型ですが、いずれとも「変わり者」という印象を持たれやすくなっているのではないでしょうか。
こちらの関係性も科学的根拠はなく、『珍しい血液型だから、変わり者だろう』という錯誤相関による誤った認識でしかありません。
認知バイアスを緩和するポイント
認知バイアスの原因は「経験や直感からくる思い込み」にあるので、対処すれば、一定は軽減できます。※ただ、人間である以上、全てを防ぐのは不可能です。
- 認知バイアスへの理解を深める
- 認知バイアス診断で思考の癖を知る
- 批判的に考え、第三者の意見を取り入れる
順番に解説していきます。
認知バイアスを緩和するポイント①
認知バイアスの理解を深める
まず、認知バイアスの存在を知らなければ、防ぎようがありません。あなたがAIではなく人間である限り『なにかしらのバイアスはある』という認識を持ちましょう。
仮に「自分だけは大丈夫」と思っているのであれば、それこそがバイアスです。
認知バイアスを緩和するポイント②
認知バイアス診断で思考の癖を知る
次は、自身が「どういったバイアスを持ちやすいのか」という思考の癖を知ることをおすすめします。ミイダスで診断可能ですね。(記憶だと、無料でできる診断は唯一のはずです。)
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ミイダスはもともと、転職市場価値を診断できるアプリですが、「バイアス診断ゲーム」をはじめとした心理学系の診断がいくつかあります。誰でも登録できるので、興味があれば試してみてください。
認知バイアスを緩和するポイント③
批判的に考え、第三者の意見を取り入れる
認知バイアスに陥るのを防ぐために「なにごとも疑ってかかる」「自分と異なる意見を取り入れる」ことが重要です。 例えば以下のようにですね。
- 何が事実で、何が解釈か
- 別の観点から考えると、解釈は変わるか
- どのような反対意見があるか
このように、さまざまな角度から複眼的にとらえることができれば、認知バイアスに陥りにくくはなります。いわゆるクリティカルシンキング(批判的思考)というものですね。
第三者の意見を取り入れるのもおすすめです。利害関係がなく、都合が悪いことも率直に伝えてくれる相手にしましょう。
他の認知バイアス【一覧と具体例】
認知バイアスは『様々な理由で認識が歪んでしまい、事実を正しく認識できずに不合理な(事実でない)認知をしてしまう傾向』を総称したもので、いくつもの種類があります。
認知バイアス | 説明・具体例 |
---|---|
正常性バイアス | 自分に都合が悪い事実を信じない、現実を見ない 例:連帯保証人になったら友達が音信不通に。でもきっと大丈夫! |
確証バイアス | 自分の信念を裏付ける情報を探し求め、それ以外を見ない 例:大好きな彼氏はココが良い!ココも素敵! |
生存バイアス | 現在、生存している事例(成功例)しか見ない 例:成功した起業家を分析して、失敗例を見ない |
後知恵バイアス | 過去の事象に「それは予測可能だった」と勘違い 例:そのじゃんけん、チョキなら勝てるってわかったよね? |
自己奉仕バイアス | 自身に好意的な認識を持ちやすい傾向がある 例:成功は自分の能力が高いおかげ。失敗は外部環境のせい |
自己中心性バイアス | 自分を基準に、他者の心情や認知を推察する 例:自分の価値観を押し付ける、相手目線で考えられない |
感情バイアス | 感情的な好き嫌いが意思決定に影響を与える 例:性能は悪いが、つい好きなブランド商品を買ってしまう |
投影バイアス | 自分の好み、感情、価値観を他人に投影して認識する 例:まわりの人も自分と同じ意見、感情だと思い込む |
一貫性バイアス | 他者の1行動に一貫性があると思い込む 例:さっきナンパしてきた人、絶対いろんな女子に声かけてるよね |
保守性バイアス | 新しい情報を取り入れて、考え方や行動を変えることに躊躇する 例:革新的な新技術が出ても、使わず、従来のやり方に固執する |
バーナム効果 | 曖昧な特徴でも、自分に強く該当すると思い込む効果 例:占い師「あなたは◯◯な人間ですね」→そうかも! |
ハロー効果 | ある事象への評価が、他の目立った特徴に引っ張られる効果 例:清潔感がない人は、仕事もできなさそうだし性格も悪そう |
ダニングクルーガー効果 | 能力の低い人ほど自分を高く評価しやすい心理効果 例:もうこのゲームはコツ掴んだな!オレ最強かも! |
コンコルド効果 | 過去の投資を惜しんで、追加投資をやめられない効果 例:UFOキャッチャーを取れるまでやってしまう |
バンドワゴン効果 | 多くの人々が支持する意見や行動に信頼感を抱く効果 例:子どもが、他のみんなと同じオモチャを欲しがる |
フレーミング効果 | 同じ情報でも伝え方によって受け取り方が異なる効果 例:電池残量が「残り50%もある」と「残り50%しかない…」 |
アンカリング効果 | 最初に提示した情報が基準となり、その後の認識に影響を与える効果 例:商品の値下げ(大きく下がっているとお得に感じますよね?) |
アンダードッグ効果 | 不利な立場の負け犬を同情・応援したくなる効果 例:バレンタインに縁がなさそうな人にチョコをあげたくなる |
クレショフ効果 | 2枚の関係ない写真に、意味的な繋がりを感じる効果 例:「野菜」「不機嫌な人の顔」→野菜が嫌い? |
バックファイア効果 | 信念に反する情報を提示すると、裏目になる効果 例:大好きな彼氏を批判されると、かえって愛情が増す、守る |
真理の錯誤効果 | 繰り返された情報を真実だと思い込む効果 例:「最高品質」と効果を連呼するTVCMを繰り返しみて信じる |
リスキーシフト | 集団の中だと、よりリスクの高い意思決定をしやすくなる効果 例:赤信号、みんなで渡れば怖くない |
錯誤相関 | 二つの事柄に、相関関係があると錯誤(思い違い)すること 例:雨男/雨女、アイスの売上と溺死数 |
根本的な帰属の誤り | 他人の行動の場合、外部要因を過小評価してしまう傾向 例:遅刻の原因で、状況要因を考慮しにくい(性格のせいにしがち) |
アロンソンの不貞の法則 | 知らない人からの褒め言葉を、より嬉しく感じる法則 例:家族よりも、他人から認められると嬉しい |
代表性ヒューリスティック | ある対象の判断を、既知概念の代表的特性との類似性で判断する 例:「尻尾が丸い動物」→「うさぎかな?」 |
可用性ヒューリスティック | ある判断をするとき、すぐに思い出せる事例や情報から判断しやすい 例:馴染みのものや、人気ブランド、記憶に浮かぶ商品を選びがち。 |
選択のパラドックス | 選択肢が多ければ多いほど不満を感じやすくなる 例:レストランのメニュー、料金プランの種類など |