内発的動機付けとは|結果へ向かうプロセスそのもの(充実感、学習意欲)でやる気UP

内発的動機付けとは、とある結果に向かっていくプロセスそのものや自身の内的報酬(充実感や自己実現)による動機付けのことを指します。

あなたも以下のような経験があるのではないでしょうか?

「調べるのが楽しくて、気づいたら朝だった」
「〇〇さんと一緒に活動するのが誇らしくて奮闘していた」

このように、作業(結果へ向かうプロセス)自体に夢中になる状態こそが「内発的動機付け」と呼ばれるものです。

結果ではなく、活動することそのものが動機付けになるため、目標達成までの苦難の道のりや試行錯誤の連続であっても、それを自らの糧と捉えることができ、さらなる活動や努力の原動力になっていくことが特徴です。

ビジネスを例に説明すると、以下のような状況が当てはまります。

  • 自分が良いと思う商品を世の中に広めたい
    →自分がいいと思うものを普及させるという自己実現が内的報酬
  • 仕事がうまくいったときの喜びがやりがい
    →うまくいったという達成感が内的報酬
  • お客さまの喜ぶ顔を見るためなら頑張れる
    →人を喜ばせることができたという有能感が内的報酬

ここでは、そんな不思議な力を持つ「内発的動機付け」の影響と事例についてみていきましょう!

【過程vs結果】内発的動機付けと外発的動機付けの違い

内発的動機付けを理解する上で、対称の意味となる「外発的動機付け」の存在は欠かせません。

「外発的動機付け」とは、手に入れたい結果(外的報酬や賞罰)があり、それを得るための手段として行動をとっている状態のことを指します。

いわゆる「飴と鞭」で、例えば、

  • 昇進するために努力する
    →「昇進する」ことが外的報酬
  • 上司に怒られないように営業する
    →「怒られるという罰を受けなくて済む」ことが外的報酬

などがその代表例です。

この外発的動機づけは短期的にモチベーションが上がることが特徴ですが、それが継続しないことや他のモチベーションを下げてしまう副作用があることも知られています。

エドワード・L・デシ(Edward L. Deci)によって実証

「内発的動機付け」という概念を理論化したのは、エドワード・L・デシ(Edward L. Deci)という米国の心理学者です。

1960年ごろ、心理学の世界では、その人の感情などは考慮せず、目に見える行動だけに着目した心理学(行動主義心理学)が流行っていました。

例えば、

・罰を与えれば怠けることはない
・動物に芸を覚えさせるには餌を与えればいい
・労働者をしっかり働かせるには十分な報酬を与えればいい

という考えのものです。

これに対してデシは、人は自分自身の選択で行動でき、自分は自由だと感じているとき、

つまり、「その行為が行為する人の手中にある状態において、人は自律的にモチベーションを高めていく」のだと主張しました。

内発的動機づけと外発的動機付けの実証実験

デシが行った有名な実験があります。

学生を2つのグループに分け、当時流行っていた面白いパズルを解かせるまでは同じなのですが、それぞれに違った条件を提示します。

2つのグループ

<Aのグループ>
パズルを解くと金銭的報酬(1ドル)を受け取れる

<Bのグループ>
バズルを解いても金銭的報酬(1ドル)は受け取れない

その上で、AとBの両方のグループの学生を集め、30分間パズルを解かせます。

30分間経過した後、監督官が「これで実験はおしまいです。データ入力作業があるため離席します。」と言い残し退室することで、残された学生たちに自由時間を与えました。

彼らの机の上には、パズルのほかに、雑誌なども置かれていて、好きに時間を過ごせます。

もちろん、ぼーっと空想にふけっていることもできるでしょう。

実は、この「自由時間に何をするのか」が本当の実験だったのです。

結果として、2つのグループに明らかな差が出ました。

Aのグループの学生は、もともともらえていた報酬がなくなることで、あまりパズルに取り組まなくなってしまいました。

しかし、Bグループの学生は、比較的長くパズルに取り組んだのです。

これは、パズルに取り組むこと自体に「面白さ」や「楽しさ」のような内的報酬を見出し、「もっとやりたい」というモチベーションを自ら高めていったために生まれた差分です。

内発的動機付けは「自律性への欲求」から生まれる

先ほどのデシの実験からもわかるように、

「内発的動機付け」は、自分のすることは自分で自由に決めて行動したいという「自律性への欲求」を満たすことで高まるという特徴を持っています。

つまり、外部(他者)から指示されたりコントロールされたりするものではありません。

子どもの頃、自分の興味があることを進んで調べてみたり、もっと発展的な問題を解いてみたいと感じたりしたことは誰しもあるでしょう。

誰に言われるわけでもないのに、自ら楽しみながら行動していく、これがまさに「内発的動機付け」というものです。

内発的動機付けの事例:北島康介さん「ちょー気持ちいい」

2004年のアテネ五輪、競泳の北島康介選手が100m平泳ぎで優勝を飾ったとき、テレビカメラの前で発した第一声は「ちょー気持ちいい」という言葉でした。

驚くことに、金メダル獲れたことやいい記録を出せたことよりもまず先に、泳いでいて「気持ちがいい」という言葉が出たのです。

五輪でいい成績を残して引退する選手もいます。

ときには、五輪での金メダルを獲った後に一時的にも目標を失ってしまう選手もいます。

しかし、「気持ちいい」という内的報酬を原動力としていた北島選手は、その後も世界の競泳界を新たなステージに引き上げながら活躍。

そして、2016年に現役を引退するまで、世界のトップをひた走り、新たな歴史を築き続けてきたのです。

内発的動機付けは外側からは促進させづらい

ここまで説明してきたように、「内発的動機付け」は、その人の持っている能力を最大限に引き出すことを可能にする力を秘める、いわばモチベーションの源泉です。

もし、企業などの組織に所属する一人ひとりが「内発的動機付け」をもって職務に励むことができたとしたら、その組織の生産性はめざましく発展していくでしょう。

しかし、そのような企業を耳にすることはほとんどありません。

なぜなら、「内発的動機付け」は、外側(企業や上司)が意図的に促進させていくことが非常に難しいからです。

というのも前提として、内発的動機付けの獲得には、相手の「自律性への欲求」を高めることが重要なのですが、

ある組織に所属する以上、一人ひとりに自由な裁量権を与えるなんてことは、現実的ではないことが主な原因の1つでしょう。

社長賞や昇給目安を呈示するのは逆効果

例えば、社員のモチベーションを高めようとして社長賞を設けたり昇給・昇級の目安を呈示したりすることがありますが、このような「外発的動機付け」は、「内発的動機付け」にとってそれは逆効果です。

デシの実験で、1ドルを与えられたAグループの学生が自由時間ではパズルにあまり取り組まなかったように、「報酬があるときにだけやり、報酬がなければならない」という状態がつくられやすくなってしまいます。

短期的にモチベーションを高めたい場合であれば機能するのですが、長期的にモチベーションを高めて働いてもらいたい企業にとっては悪手でしょう。

このように、外発的動機付けには、元々あるモチベーションを上書きして潰してしまうほどの副作用があるのです。

内発的動機付けを促進させるための3ポイント

「内発的動機付け」を高めるためには、個々が自ら内的報酬を獲得し、それをやりがいと感じられるような風土をつくっていくことが最も大切です。

そのためには以下3点を意識しましょう。

(1)能力や成長段階に合わせた裁量権を与える

最低限のルールをしっかりと示しつつ、各自の能力や成長段階に合わせた裁量権を与えることで、自律性の欲求を満たしていくことが必要になります。

(2)簡単な業務だけでなく新しい挑戦をさせる

裁量権を与えるにしても、簡単な業務だけではなく、ある程度の失敗をおそれずに新たな取り組みや改善にチャレンジできる機会を設けることが有効です。

(3)結果ではなく、努力や試行錯誤を評価する

何かよい成果があがったときに、昇級や昇進をほのめかすのではなく、そこに至るまでの「努力や試行錯誤」に対して評価者は言及をするべきです。

例えば、

  • これ大変だっただろうにありがとう
  • ここをやってくれたのが凄く助かった

など、「ああ、この人の役に立てたんだ」と思える褒め方をすることが大切です。

そのほかにも、顧客がいるような業務内容であれば、顧客の感謝や喜びの声を知れるような機会をつくるのもいいでしょう。

また、同僚や上司がやりがいを持って主体的に行動している姿を見る、それぞれがやりがいを共有するような方法もあります。

内発的動機付けの促進は、有機野菜を育てる土壌づくりによく似ている

内発的動機づけは、有機農業に似ています。

農薬などを使わない有機野菜は、多少不揃いなものがあったとしても、その作物の持つ力が最大限に引き出されていて、栄養満点です。

一方で、表彰制度や昇級昇進などの外側からの報酬を与えて発育促進させようとするのは、化学肥料などをふんだんに使って意図的に成長や成熟をコントロールしようとするものでしょう。

確かに、出荷しやすい作物が比較的想定通りに実るかもしれませんが、個性はあまりなく、創造性や発展性には物足りません。

ただ、有機農業の場合は、農薬などの成長促進剤を使わない代わりに、よい土、よい水、よい環境の整備に力を入れなくてはなりません。

「内発的動機付け」という果実が自然と獲得されていくための土壌づくりですから、芽が出て育つまでには少し時間がかかるでしょう。

さらに、土壌づくりはあるときだけやればいいというものではなく、丹念に、繰り返し、常に維持されていく必要があります。

こうした小さな土壌づくりをしていくなかで、いつしかそれぞれが自分なりの内的報酬を見出していくことができれば、それが組織全体の生産性向上や創造的発展につながっていくのです。

まとめ

ここまで、内発的動機付けについて説明してきましたが、いかがでしたでしょうか。

内発的動機付けとは、結果へ向かっていくプロセスそのものが動機付けになっている状態のことを指しており、長期的にその効果が継続する特徴がありました。

内発的動機付けがうまく行くと、「誰に言われるわけでもないのに自ら楽しみながら行動していく」のです。

これこそ、本来人間があるべき姿と言えるでしょう。

このページを読んだあなたの人生が、より豊かなものとなることを祈っております。