クレショフ効果とは|写真同士に関連性をつけて解釈する認知バイアス

クレショフ効果とは、前後の脈絡がない映像や写真の羅列に対し、前後のつながりを無意識に関連づけ、勝手に意味を解釈してしまう心理効果のことです。

例えば、以下のような画像を見ると「猫がご飯を食べたがっている」ように見えるのではないでしょうか?

このように、本来は関係のない2枚の写真ですが、無意識に意味を関連づけてしまうことが知られています。

クレショフ効果の提唱者は、ソビエト連邦の映画監督のレフ・クレショフであり、「本来は関係ない無意味な画像や写真でも、映画のように編集されると、その前後にある映像との間に意味を見つけてしまう」と考え、数々の映画作成に応用していきました。

では早速、クレショフ効果について解説していきます。

「クレショフ効果」は認知バイアスの1つ

認知バイアスとは、常識や固定観念、また周囲の意見や情報など、さまざまな要因によって「合理的でない」認識や判断を行ってしまう認知心理学の概念です。

クレショフ効果以外で、認知バイアスの例をあげると、以下のようなものがあります。

認知バイアスの例
  • 確証バイアス
    自分の仮説や信念を検証するとき、都合良い情報ばかりを集め、都合の悪い情報を見なくなる心理現象
  • 正常性バイアス
    自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価したりする心理現象

ちなみに、「バイアス」とは思考の偏りのことを指しています。

そもそもバイアスとは

「バイアス(bias)」はもともと英語で「かたより(偏り)」という意味で、心理学においては「人の思考における偏り」を指します。

言い換えると、「思い込み」や「先入観」、「偏見」「差別」といったものから、「傾向」という軽度なものまですべて「バイアス」です。

これらのバイアスは、脳が「知覚し・感情を生起させ・記憶を形成し・行動に至ったりする」といった全プロセスに影響を与えるため、ときに大きな判断ミスに繋がることもあります。

そして、思考にバイアスのない人間は存在せず、全ての人間は、あくまで限定された合理性しか持ち得ないというのがポイントです。

「クレショフ効果」の実験内容

クレショフ効果の実験は、被験者をグループ分けして、3種類の写真を見せた後に、男性(無表情)の顔写真を見せて、それぞれどう感じるかを実験したものです。

クレショフ効果の実験イメージ
  1. スープ→男性(無表情)
  2. 棺のなかの遺体→男性(無表情)
  3. ソファーに横たわる女性→男性(無表情)

そして、被験者はそれぞれの写真を見た後、男性がどのような感情を表していたかを回答します。

もちろん男性は無表情な顔をしているわけですし、3枚の写真とは全く無関係なので、本来は、男性の感情など答えられるはずがありません。

ところが結果を見てみると、以下のようになりました。

クレショフ効果の実験結果
  1. スープ→空腹、飢え
  2. 棺のなかの遺体→悲しみ
  3. ソファーに横たわる女性→欲望

このように、明らかに直前に見た写真と関連した感情を回答しており、ここから被験者が、直前に見た写真に影響されて、男性の無表情な顔に印象を抱いたことがわかります。

なお、この実験では写真が順番に呈示されてましたが、人は、無関係なものであっても勝手に意味や順番をつけてしまう心理的傾向があるため、

全く無関係な写真や絵を『同時』に見せられたときにも、順番に呈示されたときと同じような「クレショフ効果」が生じることがわかっています。

「クレショフ効果」の日常事例

「クレショフ効果」は、映画や広告、デザインの中によく活用されていて、特にわかりやすいのは、商品のパッケージや販促、企業のパンフレットやウェブサイトなどです。

実際に、静的な写真やデザインを使って、商品や事業内容などにできるだけよいイメージを与えようと、様々な試行錯誤が施されています。

  1. クレショフ効果の事例(1) 猫のご飯
  2. クレショフ効果の事例(2) 洗濯用洗剤のテレビCM
  3. クレショフ効果の事例(3) ビールや酒類のテレビCM

ではそれぞれ解説していきます。

クレショフ効果の事例(1) 猫のご飯

このように、猫とご飯の写真が一緒に写っているだけで、「クレショフ効果」が発動します。

  • 猫がご飯を食べたがっている
  • 猫が「この缶詰が食べたい」「このごはんを買って欲しい」と消費者に訴えかけている

というストーリーとして、この2つの写真を無意識に関連づけてしまうのです。

当然、猫のご飯を買おうとする人は、ほぼ100%猫を飼っていますから、プリントされた写真に自分自身の飼い猫を重ね合わせることでしょう。

そのため、その場にはいないはずなのに、自分の飼い猫が直接消費者に「食べたい!!」「買ってくれ!!」と訴えかけているように感じるのです。

ちなみに食べている画像だとそこまで訴求力はない

このように、実際に食べている画像だと訴求力があまりません。

これだと、「ネコがおいしそうに食べているな」とは思ってもらえますが、ネコの目線は盛られたご飯の中身に向いてしまい、消費者には訴えかける力がなくなってしまうからです。

そのため、世に出回っている猫のエサのパッケージのほとんどで、猫は正面を向いており、これはクレショフ効果によって訴求力を高めるためなのです。

クレショフ効果の事例(2) 洗濯用洗剤のテレビCM

洗濯機用洗剤や柔軟剤のCMでは、洗濯物をなぜか『青空の下』で干している映像が多くあります。

そして、洗濯物に汚れた服はなく、大抵は新品の白いティーシャツかタオルが使用されていて、さらに洗剤や柔軟剤を洗濯機に投入している場面すらほぼありません。

このように、CMの映像では『現実』と全く関係のない洗剤や柔軟剤のパッケージやロゴ、タオルなどの洗濯物、謎の青空が繋ぎ合わされているものが大半です。

にも関わらず、CMを見る消費者は、

あたかもその洗剤を使って洗濯された服が干されていると認識し、まるで青空の下で干されて、爽やかに乾いていくように受け取ってしまうのです。

クレショフ効果の事例(3) ビールや酒類のテレビCM

ビールなど酒類のテレビコマーシャルも、「クレショフ効果」がふんだんに用いられています。

ただ、アルコールの宣伝には、未成年の飲酒防止や飲酒による健康への影響を鑑み、「酒類の広告・宣伝及び酒類容器の表示に関する自主基準」が設けられているので、

広告には厳しい規制があります。

  • 喉元を通る「ゴクゴク」等の効果音は使用しない
  • お酒を飲むシーンについて喉元アップの描写はしない
  • スポーツ時や入浴時の飲酒を推奨誘発する表現は避ける

こうした制限のなかでビールを飲んだあとの爽快感やおいしさをアピールするため、「泡」や「情景」などを活用して、各社が日々趣向をこらしています。

そのため、TVCMや電車の中吊り広告などを見かけた際には、「クレショフ効果」の視点で見てみると面白いかもしれませんね。

「クレショフ効果」の活用方法

「クレショフ効果」は、マーケティングやブランディング、対人関係づくりなど、イメージ戦略が功を奏すあらゆる場面で活用する価値があります。

  1. マーケティングでの活用
  2. ブランディングでの活用
  3. 営業・対人関係作りでの活用

ではそれぞれ見ていきましょう。

(1) マーケティングでの「クレショフ効果」の活用方法

例えば、同じハムを売り出すにも、伝えたいメッセージによって、その訴求方法は大きく変わるでしょう。

ハムが、イタリア製であることをアピールしたいなら、イタリアの町並や歴史的建造物の画像・映像と商品とを組み合わせるのがおすすめです。

また、高級感をアピールしたいなら、おしゃれな空間でワイングラスが輝いている画像と組み合わせるのが良いでしょう。

もっと日常的なイメージで購入してもらいたいならば、家庭の食卓やトーストの画像・映像と商品とを組み合わせるのも良い方法です。

このように、商品のアピールしたい特徴や、どのような場面で食べてもらいたいのかを決めると、その後の訴求イメージが自然と決まっていくでしょう。

(2) ブランディングでの「クレショフ効果」の活用方法

ブランディングに活用する場合、「美しさ」「解放感」「誠実さ」など、抽象的な概念を付与することになるため、

ブランドに付与したいイメージを明確にするのと同時に、多くの人が似たイメージを直感的に抱く、象徴的な画像・動画を探すことが鍵となります。

例えば、タンポポの花言葉に「誠実」がありますが、タンポポを見て誠実さを感じる人はほとんどいないので、ブランディング向きではないでしょう。

それよりも、雲ひとつない青空、真っ白いシャツを着て白い歯をのぞかせる爽やかな好青年、透明感のある女優さん、などの方が適切です。

(3) 商談や営業での「クレショフ効果」の活用方法

人の顔つきなどはなかなか変えられませんが、「クレショフ効果」を使えば、それが人に与えるイメージを十分に変えることが可能です。

例えば、強面だったり真面目で堅物そうに見られがちでも、スマホの待ち受け画面を「お花畑で遊んでいる犬」にすれば柔らかく感じるものです。

他にも、チェック柄の入った名刺入れ、鞄につけたキーホルダー、隠れキャラクターがプリントされたネクタイなど、ひとつ取り入れるだけでも印象は変わるでしょう。

もしそれが誰かにプレゼントされたものであったとしても、相手は勝手に、目の前にいる人がそれを買ったり、今日はそれを身に付けようと選んだりする姿を連想し、そこにお茶目さを感じるのです。

他にも、手渡す資料などがあれば、その書体をポップなものにすることも有効でしょう。

逆に、まだ年齢が若かったり幼顔だったりして、もっと落ち着いて信頼できるような印象を相手に与えければ、

使い込まれたような色合いの名刺入れやペン、どっしりとした樹木を連想させるような色合いのネクタイ、堅い明朝体で書かれた資料など、小道具を使ったイメージ戦略が有用です。

このように、持ち物ひとつで人に与える印象をある程度コントロールすることが可能なのです。

「クレショフ効果」のマイナス効果に要注意

「クレショフ効果」は、一緒に呈示する画像や動画によって、相手が抱くイメージを操作できますが、意図せずマイナスイメージを与えないよう注意が必要です。

例えば、せっかく清潔感ある印象を与えようと上から下までスーツで決めたのに、渡す資料に汚れがついていれば台なしになってしまいます。

このように、人は小さなほころびを過大評価してしまう心理的傾向があるので、「クレショフ効果」を使うときには、細部にも気を配ることをおすすめします。

参考:認知バイアスとは

認知バイアスとは、常識や固定観念、また周囲の意見や情報など、さまざまな要因によって「合理的でない」認識や判断を行ってしまう認知心理学の概念です。

確証バイアスの他にも様々な認知バイアスがあります。

認知バイアスの例
  • ハロー効果
    とある目立つ特徴によって、他の特徴の評価が歪められてしまう心理現象
  • 正常性バイアス
    自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価したりする心理現象

ちなみに、「バイアス」とは思考の偏りのことを指しています。

バイアスとは

「バイアス(bias)」はもともと英語で「かたより(偏り)」という意味で、心理学においては「人の思考における偏り」を指します。

言い換えると、「思い込み」や「先入観」、「偏見」「差別」といったものから、「傾向」という軽度なものまですべて「バイアス」です。

これらのバイアスは、脳が「知覚し・感情を生起させ・記憶を形成し・行動に至ったりする」といった全プロセスに影響を与えるため、ときに大きな判断ミスに繋がることもあります。

そして、思考にバイアスのない人間は存在せず、全ての人間は、あくまで限定された合理性しか持ち得ないというのがポイントです。

さいごに

いかがでしたでしょうか。

クレショフ効果とは、前後の脈絡がない映像や写真の羅列に対し、前後のつながりを無意識に関連づけ、勝手に意味を解釈してしまう「認知バイアス」の1つでした。

そのため、マーケティングやブランディングといった幅広い分野で、相手からの印象を操作するテクニックとして使用されています。

これを機に活用してみてはいかがでしょうか。

このページを読んだあなたの人生が、
より豊かなものとなることを祈っております。

参考文献
  • 『映像の心理学―マルチメディアの基礎』サイエンス社
  • 「酒類の広告審査委員会」http://www.rcaa.jp/index.html