引き寄せの法則とは、「自分の思っているものごとが、自然と現実になる(引き寄せる)」という経験則のことです。
科学的に実証されてはいないものの、自分の気持ちを改善することで、ものごとをうまく進めるようになったり、良い成果につながったり、といった「ポジティブシンキング(積極思考)」の観点から、主に自己啓発の領域で支持されています。
そこで本ページでは、「引き寄せの法則」が広く支持を集める理由と、引き寄せの法則を、実生活に取り入れる際のポイント、注意点について解説していきます。
オーストラリアのテレビ作家 ロンダ・バーン(Rhonda Byrne)によって提唱
引き寄せの法則は、オランダのテレビ作家・プロデューサーであるロンダ・バーンによって、1987年に自身の書籍である「ザ・シークレット」で発表したことから広まりました。
彼女は、信じることで夢や願いを達成できるというポジティブシンキングを信念としており、引き寄せの法則は「思考が現実になる」という思考を自己啓発の考え方として提唱したものです。
なお、本書はこれまでに40ヶ国語以上の言語に翻訳され、1,900万部以上が販売されおり、今もなお売れ続けるロングセラーとなっています。
当書によれば、現実はすべて自分の思考次第で決まるという「引き寄せの法則」は決して良い結果だけを引き寄せるわけではなく、病気や事故、災害といった悪い側面のものごとまでも、自分自身のマイナス思考によって引き起こされるものとしています。
そして、それらの根拠として彼女が挙げた科学概念が「擬似的なものである」と否定されていることから、今でも賛否両論があります。
しかし、「引き寄せの法則」には心理学において実証されている、いくつかの類似した心理効果が存在していることから、それらを根拠に引き寄せの法則を支持する人たちも多く存在します。
そのため、現在でもスポーツやビジネスなどさまざまな画面で引き合いに出されることの多い概念です。
「引き寄せの法則」に付随する心理効果
引き寄せの法則には、類似した心理学の理論や効果がいくつかあり、実はこれらが人の心や言動に影響を及ぼしているという説もあります。
ただ、類似したものとしてあげられる心理学理論は出典が不明なものも多くあり、今回は提唱者があきらかなものに絞って紹介します。
カクテルパーティー効果×引き寄せの法則

「カクテルパーティー効果」とは、パーティー会場のようにたくさんの人が雑談している騒がしい空間の中でも、自分が興味の向けている人の会話や、自分の名前が呼ばれた際などは、自然と聞き取ることができるという心理効果です。
イギリスの認知心理学者、エドワード・コリン・チェリー(Edward Colin Cherry)が1953年に発表しました。
- ざわつく部屋でも、自分の名前が呼ばれるとはっきりとわかる
- 大勢の人が集まった飲み会でも、自分が話したい相手の声は比較的聞き取りやすい
- 元々長く吹奏楽の経験がある人がオーケストラを聴いていると、自分の担当していた楽器の音がよく聴き取れる
このカクテルパーティー効果は、いくつかの理論がもとになっており、人によっては効果が弱いこともありますが、効果自体は立証されています。
そして、引き寄せの法則においては、スポーツで「絶対勝つ」と自分に思い込ませる、すなわち勝利を引き寄せる意識を持つことで、勝利につながりやすくなるとされています。
その理由は、勝つという気持ちによって、野球の試合中、監督の指示が無意識に聴き取りやすくなるなど、プラスの影響が往々にして働くことがあるためです。
確証バイアス×引き寄せの法則

確証バイアスとは、なんらかの仮説や信念を検証する際に、自身が支持する情報ばかりを無意識に集め、逆に自身の意に反する情報は無視したり集めようとしなかったりするという現象です。
認知心理学や社会心理学の領域における用語で、ピーター・カスカート・ウェイソン(Peter Cathcart Wason)が1966年に考案したロジックパズルによって導かれました。
現代における事例だと、血液型占いなどが確証バイアスに該当します。
血液型占いを誰かに当てはめようとすると、その血液型に当てはまるとされる事象ばかりを集めて当たっている証拠としたり、
逆に、他の血液型に当てはまるとされる事象は、その人がその事象に当てはまっているにもかかわらず考慮されなかったりします。
なお、この確証バイアスによって、まれな事象の起こる確率を過大評価しがちであることも知られています。
そして、引き寄せの法則との関連ですが、「自分は幸運の持ち主だ」と思い込む、つまり幸運を引き寄せる信念を持つことで、どんなささいなものであっても、良い出来事はすべて「自分は運がいいからである(幸運を引き寄せた)」と理由づけるようになります。
逆にそういう場合、悪いできごとには目が向きません。
この理由づけと悪いできごとの回避はまさに確証バイアスの影響だといえるでしょう。
プラシーボ効果(プラセボ効果)×引き寄せの法則

プラシーボ効果とは、実際は効果を持たない偽物の薬を「これは効果がある」といわれ、偽物だと知らさられずに服用していると、実際は薬の効果がなくてもなんらかの改善を見せることがあるという現象です。
ハーバード大学麻酔教授であったヘンリー・ビーチャー(Henry Knowles Beecher)が1955年に研究報告を行い、現在まで広く知れ渡っています。
自分が病気になった際、引き寄せの法則で「絶対に治る」と自分に言い聞かせることで、このプラシーボ効果が起こり、回復に至るというケースが該当します。
参考:日本古来のことわざに「引き寄せの法則」と似たものがいくつもある
実は日本のことわざに、引き寄せの法則と似たものがいくつか存在します。
- 笑う門には福来る
- 類は友を呼ぶ
- 噂をすれば影がさす
- 人を呪わば穴二つ
有名なことわざなので解説は割愛しますが、これらも何かの言動によって結果が引き起こされるという点で、引き寄せの法則に類似しています。
余談ですが、1970年ごろに日本でも流行した「マーフィーの法則」も引き寄せの法則に似ているとしばしば引き合いに出されます。
ちなみに、このマーフィーの法則とは、「起こる可能性のあるものは、絶対に起こる」「失敗する可能性のあるものは失敗する」といったものです。
「引き寄せの法則」が効果的とされる事例
引き寄せの効果自体は立証されていないものの、いくつかの心理効果が引き寄せの法則に類似していることや、ポジティブシンキングという心理的態度とも連動しやすいこともあって、肯定的に用いられることがしばしばあります。
今回は、特にメジャーな以下3つをテーマに事例を紹介します。
では、それぞれ見ていきましょう。
引き寄せの法則が効果的な事例1.スポーツ

カクテルパーティー効果でも言及しましたが、「自分は勝てる」と思い込むことによって、勝利に繋がることが往々にしてあります。
例えば、
- 監督の的確な指示がよく耳に入る
- 周囲の負けるという予想の声があっても諦めなくなる
- 直前に飲んだサプリメントの効果が出てパワーアップ
などです。これらのように、
勝敗に大きな影響は与えないまでも、「ポジティブで都合の良い思い込み」によって、粘り強いパフォーマンスや積極的に挑む姿勢が強化され、勝利へと結びつくことがあるのです。
引き寄せの法則が効果的な事例2.恋愛
引き寄せの法則においては、しばしば用いられる実例です。
「好きな人と付き合える」と思い込むことによって、例えば、
- 占いを信じて行動や容姿に気を配るようになる
- 相手のしぐさや言動を自分に好意があるように捉えられる
- それらの心理状態が表情や体調(肌や体型など)に現れる
なんてこともあるかもしれません。
思い込みが度をすぎて事件を起こさないか心配ですが、結果としてその人自身の外見的、内面的な魅力が上がり、恋の成就に一歩前進する可能性もあるでしょう。
引き寄せの法則が効果的な事例3.ビジネス

引き寄せの効果は、ビジネスの場でもしばしば用いられます。
例えば、「自分は営業で月に100万円稼ぐ!」といった大きな目標を心に誓う、すなわち引き寄せの法則を信じることによって、
- 知識や技術の習得に、意欲的になる
- 成約まで何度も挑戦できるようになる
- 小さな前進であっても、自分の中でポジティブに評価することができる
という意識と行動の改善が、大きな成果を上げるということも考えられます。
また、なにより「高い目標を掲げてそれに向かって一生懸命頑張っている人」は周りから見ても応援したくなるものです。
「引き寄せの法則」に関する2つの注意点
ここまでお伝えしてきたように、引き寄せの法則によって、物事をポジティブに捉えて前向きに努力を重ねることで、結果として高いパフォーマンスを生み、望んだ結果へ繋がる可能性があります。
- 自分の気持ち次第で自分の言動を改善
- 能力を向上させる情報を積極的に取得
- 実になる知識や技術を能動的に身につける
- 小さな成果の一つひとつを努力に賜物だとポジティブに評価
ただし、引き寄せの法則にはデメリットもあり、以下2点、注意する必要があるでしょう。
では、それぞれ説明していきます。
(1) 科学的でないため思わぬ衝突を招くこともある
「引き寄せの法則」は、スピリチュアルな考え方であり、科学的に実証されているわけではないので、安易に他人へ勧めことは避けたほうがよいでしょう。
自分自身を高めるものとして自己暗示的に用いることは推奨されても、効果の証明された心理学の理論だと第三者に主張してしまうことは、思わぬ意見の衝突を招きかねません。
事実、「引き寄せの法則」の効果に対して、懐疑的であったり否定的であったりする人は少なくないのです。
例えば、よくあるのが「引き寄せの法則は宗教的である」「根拠がないものを信じ込むのはどうか」という反論から口論に発展してしまうケースでしょう。
そのため、引き寄せの法則を用いて意識改革や行動変容を他者へ促すことはあまり推奨できません。
基本的には自分の中だけで信じて、自己改革の一環として用いるだけに留めておきましょう。
(2)現実とズレた思い込みが悪影響を与える可能性がある
引き寄せの法則では、ポジティブな考え方をしていても、現実と大きく逸れた盲信によって、悪影響を被る可能性があります。
例えば「自分は仕事で絶対に成功する人間だ」と思い込むことで、上司からの否定的な指摘を軽んじたり、感情的に反論したりするような場合。
このケースの場合は、自分の信念に反する情報が無視されるようになる「確証バイアス」が関連しているとも考えられるでしょう。
ともすると「ここは自分のいるべきところではない」「もっと自分の才能を認めてくれるところがあるはずだ」と突発的に仕事を辞めてしまい、やがては職を転々とするに至るようなことも起こりえないことはでありません。
引き寄せの法則を用いる際には、自分の状態や状況を冷静になり、客観的に見直すことも非常に重要です。
「引き寄せの法則」は鵜呑みにしすぎず、前向きな姿勢だけ参考にしよう
結論からいうと、鵜呑みにしすぎることなく、ポジティブな思考を自分の思考や言動に反映する「いいとこどり」をすることを推奨します。
少なくともいくつかの関連する心理効果が実証されていることから、まったくの眉唾な概念であるということもないでしょう。
しかし、病気や事故、災害といった受難など、客観的に考えて自分の言動と関連しにくいことを自分の日ごろの意識の低さが原因だとしてしまうことは、いささか危険です。
一流のスポーツ選手などがそうであるように、常に自分を信じて前向きな姿勢であることは、自分にとって有用な情報を主体的に受け取り、自分を高める鍛錬を怠らず、実際の試合でどんな逆境に立たされても心折れることなく、最後までやりきる力につながります。
重要なのは、自分にとって都合の悪い情報にもきちんと客観的に目を向けて、それでも自分を保ち続けられるまっすぐでしなやかな心を持つことです。
ネガティブな情報から自分の言動を正すきっかけが生まれることもしばしばあります。
それらも含めて自分を信じることが真の強さであり、その姿勢こそがよい結果を「引き寄せ」る、真の秘訣であるといえるでしょう。