パーソナリティ障害とは|パーソナリティ機能(認知や感情など)に偏りがある障害

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長谷川
長谷川
国立大学卒業後、メンタルヘルス関連の専門的心理相談業務に従事。臨床心理学関連の論文執筆歴多数(保有資格:臨床心理士、公認心理士)

パーソナリティ障害とは

パーソナリティ障害とは、認知、感情、衝動コントロール、対人関係といったパーソナリティ機能の広い領域に偏りがあり、それによって生きづらさがある状態を指します。

本人はこうした偏りに無自覚であることも多いですが、誰よりも本人がその生きづらさに苦しめられています。

「パーソナリティそのものが病的である」「性格が悪い」などという理解はすべて誤りと言えます。日本ではかつて「人格障害」とも呼ばれていますが、その人の人格そのものが病的であるとの誤解が多かったため、現在は「パーソナリティ障害」と呼ぶことが一般的です。

パーソナリティ機能の偏りは、“その人が属する文化から期待されるものから著しく偏っているかどうか”から判断されます。このことからわかるように、パーソナリティ障害による生きづらさは、本人と周囲の社会との軋轢(あつれき)によって生じています。これを精神疾患/精神障害とみなしてよいのかどうか、現在も専門家間で議論が続けられています。

そのため、パーソナリティ障害は、何かはっきりした病気があるというよりも、本人自身もどうしようもない生きづらさとその傾向を理解するための、一種の指針として理解することが適当と言えます。

パーソナリティ障害の診断基準(DSM-5)

ここでは、パーソナリティ障害の診断基準についてDSM-5を意訳しつつ引用していきます。ほとんどの方はDSM-5をご存知ないと思いますので、最初に簡単に説明しますね。

診断基準となる「DSM-5」とは

DSM-5とは、アメリカ精神医学会発刊の『Diagnosis and Statics Manual of Mental Disorders(精神疾患の診断・統計マニュアル)』の第5刷を略したものです。

未知の部分が多い精神疾患や精神障害について、ほとんどの精神科医が、この「DSM-5」をスタンダードとして、診療や研究にあたっています。

このDSM-5でパーソナリティ障害について記載があるのは、第18章「パーソナリティ障害群」です。そのままですね。

パーソナリティ障害全般(General Personality Disorder)

基準Aと基準Bがパーソナリティ障害の特徴をよく表しています。基準Dにあるように、パーソナリティ障害は20歳前後から他領域にわたって徴候が現れることを特徴とします。

そのため、専門家でも、1回や2回の診察や面接でパーソナリティ障害と判断することが困難な場合もよくあります。

また、パーソナリティ障害は「自我親和的」と言われており、自分ではパーソナリティ機能の偏りに気づきにくく、周囲の方が対応に困っていることが多いため、本人のみの診察や面接では、正確な評価をしにくいという難しさもあります。

A. その人の属する文化から期待されるものよりも著しく偏った内的体験(その人の感じ方や考え方)および行動の様式(持続的な体験様式)が、次の(1)~(4)のうち2つ以上の領域に現れている
(1)認知(自己や他者、出来事などを知覚して解釈する仕方)
(2)感情(内外からの刺激に反応して生じる感情やそれに由来する言動の仕方)
(3)対人関係(他者とのコミュニケーションの仕方)
(4)衝動の制御(感情コントロールの仕方)
B. その人の持続的体験様式に柔軟性(臨機応変さや融通)がなく、それが個人的やりとりだけではなく、社会生活上の幅広い範囲にまで見られる
C. その人の持続的体験様式は、著しい精神的・心理的苦痛を与えているか、あるいは社会生活・職業生活などの日常生活に顕著な支障を与えている
D. その人の持続的体験様式は、時間、相手、場面などによって変わることなく、それは遅くとも20歳前後から続いている
E. その人の持続的体験様式は、他の精神疾患の症状ではうまく説明できない
F. 薬物乱用や薬の副作用、他の疾患の生理的作用から直接的影響を受けていない

パーソナリティ障害の3分類と13種類(DSM-5)

DSM-5には13種のパーソナリティ障害が掲載されていますが、11~13種類目は詳細に分類できない「その他枠」の扱いになっています。

  • 11. 他の医学的疾患によるパーソナリティ変化
  • 12. 他の特定されるパーソナリティ障害
  • 13. 特定不能のパーソナリティ障害

そのため、実質的には10種類と捉えても差し支えありません。この10種類を特徴の類似性を基準にまとめたのがクラスター(群)です。群ごとに概要を紹介します。

  • A群パーソナリティ障害
    • 精神病性障害との関わりがある
    • 周囲からは奇妙で風変わりに見える
  • B群パーソナリティ障害
    • 感情的で相手への評価が変わりやすい
    • 人間関係で問題を起こしやすい傾向がある
  • C群パーソナリティ障害
    • 内向的で恐怖や不安を感じやすい

では見ていきましょう。

A群パーソナリティ障害

統合失調症などの精神病性障害とのかかわりが指摘されているのがA群パーソナリティ障害です。周囲からは、奇妙で風変わりに見えることが多いと言われています。

A群パーソナリティ障害
  • 猜疑性(妄想性)パーソナリティ障害
  • シゾイド(スキゾイド)パーソナリティ障害
  • 統合失調症型パーソナリティ障害

それぞれ見ていきましょう。

猜疑性(妄想性)パーソナリティ障害(Paranoid Personality Disorder)

他者への強い不信感と疑い深さを特徴とするパーソナリティ障害です。実際には相手が何もしていないのに、自分の疑い通りに相手からひどく傷つけられ、脅かされたのだという被害感を強く抱きます。

猜疑性パーソナリティ障害を持つ人にとって、他者や社会は、自分を攻撃したり無視したりして自分に害なすものとしか感じられません。たとえ誰かに感謝され褒められたとしても、その裏に自分を陥れようとする策略があるのではないかと疑ってしまいます。

また、自分の猜疑心を裏付ける証拠がないか、細かく探ったり追跡したりすることも特徴的です。たとえば、配偶者が浮気をしているのではないかと疑い、尾行したり、毎日の服装や下着をチェックしたり、相手に浮気をしているはずだとしつこく問いただしたりします。

相手に信頼を置くことができないため、よそよそしく、秘密主義で、人と親密な交友関係を持つことが苦手です。相手が自分の疑いを否定したり、自分に対する不義理の決定的症候をつかんだと思い込んだりしたときに、急に激高することがあります。他者や社会に対する不信感や恨み節ばかり口にするため、周囲はそれに疲れてしまいます。いつ激高するのかとビクビクもしてしまうでしょう。こうした周囲の反応を、本人は自分への敵意や不義理と感じ、さらに疑心暗鬼を深めてしまいます。

猜疑性パーソナリティ障害は女性よりも男性に多く見られます。統合失調症を持つ人の親族に見られやすく、後に統合失調症を発症する例もあります。その場合、統合失調症の症状が収まっても、猜疑性パーソナリティ障害の徴候は残ることが通例です。

シゾイド(スキゾイド)パーソナリティ障害(Schizoid Personality Disorder)

感情表現や表情が平板で、他者と交流する動機が非常に低いことが特徴的なパーソナリティ障害です。感情表現や表情の平板さは、何かの功績で称賛されるような場面、通常であれば人が恐怖におののくような場面でも見られます。急な物音や事故を前にしたときの驚愕反応すら見せない人もいます。

あまりにも感情や表情が動かないため、お人形のよう、能面のよう、と形容されることもあります。この形容の通り、何事にも受け身的で、人生や時の流れに漂流しているかのように見えます。パーソナリティ障害の人がはっきりとした自分の意思を見せることは非常に稀です。

ただ、時として、対人的関係から離れた絵画や芸術の世界に興味を見出し、そのなかで豊かな表現を見せる場合があります。

シゾイドパーソナリティ障害を持つ人は孤独を好み、社会的な交流を避けるため、他者からは“風変わりな一匹狼”のように見られる傾向にあります。人と協力したり、誰かに助けを求めたりすることができないため、社会生活を送る上で大きな困難があります。一生を未婚のまま過ごす人が大多数です。

猜疑性パーソナリティ障害のように他者に迷惑をかけることがなく、他者との対立も少ないため、精神科受診に至ることは多くありません。学校や職業生活などで社会的関係が不可欠になったとき、その負担とストレスの大きさから心身の調子を崩し、医療機関の受診やカウンセリング機関への相談に至るのが一般的です。

シゾイドパーソナリティ障害の有病率に、性差は報告されていません。統合失調症を持つ人の親族に見られやすく、後に統合失調症を発症する例があります。数分~数時間持続する程度の、非常に短い精神病性妄想を経験することもあります。

統合失調症型パーソナリティ障害(Schizotypical Personality Disorder)

統合失調症型パーソナリティ障害は、統合失調症の一部とも考えられていますが、統合失調症の診断を満たすような、妄想や幻覚などの精神症状は見られません。親密にしていた関係であったのに急に気楽な気持ちでいられなくなったり、親密な関係を築く能力に欠いていたり、風変わりで奇異な言動や格好をしたりします。超能力やテレパシーのような魔術的思考をしやすいことも特徴的です。

統合失調症型パーソナリティ障害では、「関係念慮」というものが見られます。偶然に過ぎない出来事や他者の行動に間違った解釈をしたり、通常は考えられない意味づけをしたりすることで。これが酷くなったものを「関係妄想」と言い、統合失調症の特徴的症状として知られています。たとえば、道ばたにたばこの吸い殻がいくつかまとまって落ちていたとします。それを見て、吸い殻の形が自分に何かメッセージを与えようとしていると考えるのが「関係念慮」、自分を監視しているスパイが警告を発していると確信するのが「関係妄想」です。統合失調症型パーソナリティ障害は、人を疑い深いという点で猜疑性パーソナリティ障害に似ており、他者との親密な関係を煩わしいものと感じるという点ではシゾイドパーソナリティ障害に似ています。関係念慮や妄想的思考の有無によって、これらとは区別されます。

統合失調症型パーソナリティ障害を持つ人は言動や格好、思考に風変わりさがありますが、他者に危害や迷惑をかけないため、“少し変わった人”という認識で社会のなかにある程度とけ込んで過ごすことができます。統合失調症型パーソナリティ障害の症状を理由に精神科受診に至ることは多くありません。それよりも、不安、気分の落ち込み、風変わりさからいじめ被害などを受けたつらさを訴えて、医療機関の受診やカウンセリング機関への相談に至ることが通例です。

統合失調症型パーソナリティ障害の有病率は、若干、女性よりも男性に見られやすいと言われています。統合失調症を持つ人の親族に見られやすいものの、症状は比較的安定しており、後に統合失調症を発症する例がそう多くありません。数分~数時間持続する程度の、非常に短い精神病性妄想を経験することもあります。

B群パーソナリティ障害

演技的で、感情的で、気持ちや相手への評価が変わりやすいと指摘されているのがB群パーソナリティ障害です。対人関係において、他者との摩擦や対立を起こしやすいことが特徴的です。

B群パーソナリティ障害
  • 反社会性パーソナリティ障害
  • 境界性パーソナリティ障害
  • 演技性パーソナリティ障害
  • 自己愛性パーソナリティ障害

反社会性パーソナリティ障害(Antisocial Personality Disorder)

他者の権利を躊躇なく侵害し、人を欺いたり操作したりすることを特徴とするパーソナリティ障害です。法律を無視した問題行動や犯罪行為を繰り返し、それに対する良心の呵責がありません。自分の利益や快楽のために平気で嘘をつき、人を騙してしまいます。扇情的でイライラしやすいため、激しい喧嘩や暴力沙汰をよく起こします。自分の責務を全うしようという気持ちが湧かないため、仕事は長続きせず、その場その場を凌ぐような不安定な生活を送りがちです。

反社会性パーソナリティ障害を持つ人は、しばしば共感能力を欠き、非常な自信家です。短絡的でその場主義であることから、金銭を浪費してホームレスとなったり、ギャンブルにのめりこんだりすることもあります。犯罪行為を行って服役したとしても、良心の呵責や反省が芽生えにくいため、再犯率が高い傾向にあります。

猜疑性パーソナリティ障害は女性よりも男性に多く見られます。統合失調症を持つ人の親族に見られやすく、後に統合失調症を発症する例もあります。その場合、統合失調症の症状が収まっても、猜疑性パーソナリティ障害の徴候は残ることが通例です。

反社会性パーソナリティ障害は、女性よりも男性に多く見られます。遺伝的要因と環境的要因の双方が発症リスクに影響を与えていると考えられています。親からの身体的虐待やネグレクト、一貫性のない不適切な養育は、反社会性パーソナリティ障害の代表的な危険因子です。慢性の経過をとりますが、加齢とともに症状が軽くなっていくことが一般的です。

境界性パーソナリティ障害(Borderline Personality Disorder)

対人関係、自己像、感情などが著しく不安定で、激しく、他者に見捨てられることへの強い不安や慢性的な空虚感を持つことを特徴とするパーソナリティ障害です。境界性パーソナリティ障害を持つ人が見せる激しさは、“理想化とこきおろし”と表現されます。

たとえば、自分の話をよく聞いてくれる人に出会うと、その相手に全幅の信頼を置いて素晴らしい人物と絶賛し、ちょっとしたことでも何でもその人に相談するようになります。これが「理想か」です。ところが、相手が相談の頻度を少し控えて欲しいと伝えると、一転して激しく相手をののしり、こきおろし、ひどい人だと周囲に吹聴さえします。

こうした激しさの背景には、強い「見捨てられ不安」があります。境界性パーソナリティ障害を持つ人は、孤独になることに敏感で、相手のちょっとした言動から「見捨てられ不安」を強く抱いてしまうのです。そして、相手から見捨てられないために、自分がいかにつらくて孤独かを悲劇のヒロインさながらに訴えたり、ひとりになったら死んでしまうと泣いてすがったり、自傷行為や自殺を匂わせてまで相手の気を引こうとします。

感情の振れ幅も大きく不安定で、突然怒り出す、かんしゃくを起こす、爆発的にののしる言葉を吐いたりします。その一方で、怒りなどを表出した後には罪悪感や恥ずかしさに苛まれ、ひどく気分が落ち込んでしまいます。何か目標を達成しそうなときにそれを台無しにしてしまうという行動の特徴があり、安心できる相手を求めながらも、そうした相手と仲良くなりかけた途端に自ら関係を絶ってしまうことがよく見られます。

境界性パーソナリティ障害は明らかに男性よりも女性によく見られます。親族のなかに境界性パーソナリティ障害を持つ人がいると、発症の可能性が高くなります。また、幼少期に親を失った経験や性的虐待の被害は、境界性パーソナリティ障害の代表的な発症リスクとして知られています。

演技性パーソナリティ障害(Histrionic Personality Disorder)

他者からの注目を集めることが人生における優先順位の第一位となってしまうことを特徴とするパーソナリティ障害です。自分が注目の的になっていないとおもしろくないため、必要以上に演技がかった言動をしたり、明らかに露出の多い服装で相手の性的関心を引こうとしたりします。

自分が話題の中心になるために、実際の出来事を誇張して話す、話題の種のために突拍子ない行動に出る、などのこともあります。

他者からの評価に敏感で、自分以外の人が注目されたり、自分が期待したように評価されなかったりすると、再び注目を集めることに躍起になります。常に注目を浴びるために流行に敏感で、扇動されやすい傾向にあります。思うように注目されないことが続くと、ひどく落ち込み、それをきっかけに医療機関や相談機関を訪れることがよくあります。

演技性パーソナリティ障害の有病率には有意な男女差はないと考えられています。人の気を引こうとするところは境界性パーソナリティ障害に似ていますが、感情を爆発させることはなく、慢性的な空虚感を抱かない点が異なります。反社会的行為を行うことがありますが、あくまでも他者の注目を集めるためである点で、反社会性パーソナリティ障害とは区別されます。

自己愛性パーソナリティ障害(Narcissistic Personality Disorder)

他者から賛美されたいという強い欲求、自分は特別な存在であるという過剰な自尊心、共感性の欠如を特徴とするパーソナリティ障害です。自分の能力や業績を過剰に評価し、他者にも自慢げに語ります。本人はこころから自慢に思っているため、相手が現実的で正統な評価を示すと、なぜ称賛してくれなのかと驚いてしまいます。

そして、相手が自分を高く評価しないのは、相手が自分を評価するための能力を欠いているからだと結論づけます。能力の高い特別な人達だけが自分を評価しうるのだと考えるのです。

自分の能力を過大評価すると同時に、他者の貢献を不当に低く評価することがあります。たとえば、チーム一丸となって成約した取り引きであっても、他のチーム員は大した貢献をしておらず、自分の能力がなければ成約になど漕ぎ着けなかっただろうと評価します。自分の価値を高めるために、肩書きがある人や自分を賛美してくれる人との交流を好みます。ところが、相手が肩書きを失うと急に冷たくなり、十分な賛美を寄せてくれない人は自分に嫉妬しているのだと蔑みます。自分の価値を高めてくれない人には無関心になるのです。

はりぼてのような自尊心は傷つきやすく、批判や挫折に敏感です。大きな心理的ショックを受け、うつ状態に陥ることもあります。逆に、自分に勝る相手に因縁をつけて侮蔑したり、急に怒りながら反論したりもします。

演技性パーソナリティ障害の有病率は女性よりも男性で高いと言われています。境界性パーソナリティ障害に似ているところがありますが、見捨てられ不安はありません。人に賛美されることを求めるところが、注目されるためになりふり構わない演技性パーソナリティ障害とは異なります。

C群パーソナリティ障害

内向的で恐怖や不安を感じやすいと指摘されているのがC群パーソナリティ障害です。

C群パーソナリティ障害
  • 回避性パーソナリティ障害
  • 依存性パーソナリティ障害
  • 強迫性パーソナリティ障害

回避性パーソナリティ障害(Avoidant Personality Disorder)

批判されることや恥ずかしめを受けることをひどく恐れ、それから逃れるために異常なほど引っ込み事案で変化を好まないことを特徴とするパーソナリティ障害です。

演技性パーソナリティ障害や自己愛性パーソナリティ障害と真逆で、目立つことを恐れます。同僚からのやっかみを恐れて昇進を断ったり、恥をかくことを避けるために黙ったまま時間をやり過ごしたりします。

自尊心が低く、他者からの否定的評価に敏感なためです。常に自分に対して自信のなさや不全感を抱いているため、自分から新たなことに挑戦すること、特に新しい対人関係を結ぶことには大きな難しさがあります。これらのために、社会的場面では、本来持っている能力を十分に発揮することができません。それがさらに自己評価を下げ、ますます臆病になっていく、という悪循環にとらわれがちです。

過剰なおびえや恐れのために疑心暗鬼となり、ちょっとした相手の表情の変化から、自分をあざけっているのではないか、バカにしているのではないか、などと不安になってしまいます。回避性パーソナリティ障害を持つ人は、こうした不安のために親密な人間関係を持つことを苦手としますが、自分のことを批判しないだろうという安心感を抱ける相手とであれば、良好な交友関係を続けることができます。

回避性パーソナリティ障害の有病率に、性差はないと考えられています。他者との親密な関係が乏しいという点で、一見するとA群パーソナリティ障害に似ているように感じますが、A群パーソナリティ障害を持つ人は自ら孤独を好むのに対し、回避性パーソナリティ障害を持つ人は恐れや臆病さのために交友を避けているだけで、心の奥底には交流を求める気持ちがあることが特徴的です。

依存性パーソナリティ障害(Dependent Personality Disorder)

他者に世話をしてもらいたい、面倒を見てもらいたいという強くて過剰な欲求を持つことを特徴とするパーソナリティ障害です。他者から面倒を見てもらえなくなるなることに不安が強く、相手に付き従ってまで面倒を見続けてもらおうとします。

ほんの些細なことでも自分で決定することを避けたがり、それは、その日に着る服の色にまで及びます。自分の進路や職業選択、結婚など、人生における大きな選択についても、“これでいいだろうか”“自分は間違っていないだろうか”などと意見を求めます。一度は意見を聞いて納得したことでも、ひとりになるとまた不安になり、同じことを繰り返し尋ねてしまうこともあります。

背景にあるのは、自分の判断能力に対する顕著な自信のなさです。何かを決定することだけではなく、計画を立てること、相手の意見を聞いて決めたことを実際に実行することすらもできなくなってしまうことがあります。生きることとは、選択の連続だからです。

判断を委ねられる依存相手を常に必要とし、依存相手をつなぎとめるために様々なことをします。たとえば、依存相手の意見にはすべて賛同して反対意見を言わない、依存相手から蔑まれても甘んじて受け入れる、依存相手の機嫌をとるために自分の大切なものを進んで差し出す、などです。

依存性パーソナリティ障害の有病率に性差はないと報告されていますが、若干女性の多いのではとも指摘されています。

他者から見捨てられることに不安を抱く点では、境界性パーソナリティ障害と似ていますが、境界性パーソナリティ障害を持つ人が相手を振り回すのに対し、依存性パーソナリティ障害を持つ人は依存相手に服従的です。自信のなさや臆病さは回避性パーソナリティ障害に似ているようですが、回避性パーソナリティ障害を持つ人のように対人関係を避けることはなく、むしろ依存相手との関係を続けることに腐心します。

強迫性パーソナリティ障害(Obsessive-Compulsive Personality Disorder)

完璧主義で融通が利かず、一定の秩序を保つことに強いこだわりを見せることを特徴とするパーソナリティ障害です。臨機応変さや効率性が犠牲になったとしても、秩序を保つことへのこだわりをやめられません。とにかく細かい手順や行程、形式にこだわってしまうがために、本来の目的を見失い、結果や結論に至ることができなくなってしまいます。

強迫性障害に少し似ていますが、強迫性障害では、外側から勝手に指令を出されているかのように体験される「強迫観念」と、それを鎮めるために行われる特定の「強迫行動」が繰り返されます。強迫性パーソナリティ障害に、「強迫観念」と「強迫行動」は見られません。

強迫性パーソナリティ障害を持つ人は、余暇や娯楽を楽しむことが苦手です。“時間の無駄”のように感じてしまうため、むしろ仕事などの活動に従事している方が気楽なのです。稀に娯楽に取り組むことができたとしても、計画や手順通りをはっきりさせたがり、自他に厳格なルールや正確さを求めてしまうため、本人も周囲も疲れてしまいます。

仕事では、自分がいいと思っているやり方や手順を守りたがるため、誰かに手助けしてもらったり、誰かと協働して作業したりすることに困難が生じます。相手にも自分と同じようなやり方や手順を求め、それが守られないのであれば自分でやる方がよいと考えてしまうからです。

強迫性パーソナリティ障害は、女性よりも男性に約2倍多く見られるという報告があります。自己愛性パーソナリティ障害を持つ人は自分が完璧主義だとうぬぼれますが、強迫性パーソナリティ障害を持つ人は自分に厳しく、自己批判的です。

強迫性パーソナリティ障害を持つ人は、論理的で堅苦しく、感情表現に乏しいこともありますが、A群パーソナリティ障害と異なり、奇妙さや風変わりさは見られません。

パーソナリティ障害の経過

パーソナリティ障害の経過は様々で、一概に述べることはできません。

以前は治ることがないものと考えられていましたが、近年は、適切な治療と支援により、日常生活に問題がない程度にまで回復することも多いと考えられています。

また、パーソナリティ障害の種類によっては、年齢とともに改善していく例も多く認められています。

パーソナリティ障害の代表的な治療方法

パーソナリティ障害の場合、パーソナリティ障害自体を改善する治療薬はありません。ただ、どのパーソナリティ障害も他の精神疾患/精神障害を併発しやすいため、その症状にあった薬物療法と合わせて、心理療法が行われることが一般的です。

心理療法は、比較的長期にわたって続けられることが通例です。自分のパーソナリティ機能のどんなところが日常生活の生きづらさにつながっているのかを専門家と一緒に考え、どうしていくことで自分や周囲の人が楽になっていけるのかをじっくりと考えていきます。

パーソナリティ障害のセルフケアと予防

パーソナリティ障害は未知の部分が多いものの、脳の変調との関連が指摘されつつあります。

自分の努力や対策で予防することはできないため、一般的なストレス対処を行うこと、心身に変調を感じたらすぐに専門家に相談することが大切です。

相談先には、医療機関、カウンセリング機関があげられます。

さいごに

パーソナリティ障害を正しく理解し、これを本人の性格や怠慢だと責めないことが大切です。

努力や意思で変えられるものではないからです。パーソナリティ障害を持つ人のそばにいることは大変な苦労が伴うため、適切な距離を置きつつ、回復を見守る視点大切です。