リスキーシフトとは|具体例をわかりやすく解説

目次

まずは概要から:
リスキーシフトとは

リスキーシフトとは、集団内で意思決定を行う場合だと、リスクがより高い選択をしやすくなる、という傾向、認知バイアスです。

有名な例だと「赤信号、みんなで渡れば怖くない」ですね。普段一人ではしないような「リスクが高い行動」も、集団だとしてしまうことが特徴です。

リスキーシフトの具体例
  • スポーツの戦術決定
    戦術に責任を持つ監督がいないと、リスクの高い選択をしやすくなります。
  • 社会的な行動全般
    友人と一緒だとリスクのある行動を取りやすくなります。集団内での行動は、個人での行動よりも社会的なリスクが少ないので(例:過度な飲酒や、危険なスポーツ)

このように、リスキーシフトは「集団内での意思決定」に影響を及ぼす認知バイアスです。責任の所在を明確にし、全体を俯瞰した冷静な意思決定を行うほかありません。

補足:認知バイアスとは

認知バイアスとは、常識や固定観念、また周囲の意見や情報など、さまざまな要因によって、誤った認識や合理的でない判断を行ってしまう認知心理学の概念です。

認知バイアスの具体例

リスキーシフトが起こる原因

リスキーシフトは、人が個人から集団になった途端、極端な方向へと向かいやすくなる心理傾向である「集団分極化(集団極性化)」の1つです。

個人ではなく、集団だからこそ起きるもので、原因としては下記のものが知られています。

  • 集団だと「極端な意見」が注目されやすい
  • 個人の責任が軽いので、強気に決めやすい
  • 同調圧力で反対意見も主張しにくい

ビジネスなら責任の所在が明確(管理職、経営陣)なので問題となりにくいですが、明らかなリーダーがいない集団だと「赤信号、みんなで渡れば怖くない」となりやすいですね。

リスキーシフトの実証実験

リスキーシフトは様々な心理学者によって研究が行なわれていますが、最初に提唱したとされているのは、アメリカの社会心理学者ジェームズ・ストーナーです。ストーナーは、1961年に発表した修士論文の中でリスキーシフトの存在を報告しています。

リスキーシフトの実証実験#1
ストーナーによる実証実験

ストーナーによる実証実験は、アメフト試合の「残りワンプレーで試合が終わる」という状況で、被験者やチームがどう判断するのかを検証したものです。

実験で被験者に示された条件は、以下2パターン。

  1. 安全なプレーを行う
    確実に同点で試合を終えられる
  2. 危険なプレーを行う
    もし成功すれば勝てるが、失敗すれば負けて試合が終わってしまう

そしてストーナーは、「②危険なプレー」の成功率を1/10、3/10、5/10と上げながら、被験者個人とチーム(すなわち集団)のそれぞれに意見を聞きました。

すると結果として、チーム全体に意見を聞いたときのほうが、被験者個人に聞いた際と比べてリスクの高い選択をしやすくなったのです。

これはすなわち、集団が不合理(勝率が半分以下)でありながらもリスクの高い選択に傾倒してしまうことが実証された結果になります。

参照:リスキーシフトの論文(ストーナー)

リスキーシフトの実証実験#2
ワラックとコーガンによる実証実験

ワラックとコーガンは、大学受験に関する意思決定で、「被験者」と「被験者の属する集団」の判断がどのように変化するかについて検証しています。

実験では、被験者である学生に以下の課題(設問への回答)を個別に与えたのち、6人での話し合いの時間を設けて、集団での回答を提出するよう指示しました。

【設問】あなたがこれらの大学の中から1つしか受験できないとしたら、どの大学を受験しますか?

  1. 合格率100%の大学
  2. 合格率90%の大学
  3. 合格率70%の大学
  4. 合格率50%の大学
  5. 合格率30%の大学
  6. 合格率10%の大学

実験の結果、被験者個人での回答では、安全圏の大学であるAからCを主に選択していたにも関わらず、集団での回答になるとDからFのハイリスクな選択が増えたのです。

補足:リスクの高い選択をする人がいるとさらに上がる

また、ワラックとコーガンは、「もともとリスクの高い選択をしやすい人を話し合いに加える」などの追加実験を行っています。

その結果、「リスクの高い人が集団内にいるとリスキーシフトが起こりやすい」「リスクの高い人の極端な発言は集団内で好意的に受け止められる」といった側面も実証されました。

ここから、リスキーシフトは「集団に誰が属しているか」によって起きやすさが変わること、そして「極端な発言は集団で歓迎されやすい」ことまでも示されるようになりました。

参照:リスキーシフトの論文(ワラックとコーガン)

リスキーシフトの具体例

ここからは、リスキーシフトの具体例について解説していきます。

では、それぞれ見ていきましょう。

リスキーシフトの具体例#1
掲示板やSNSの誹謗中傷

SNSにおける誹謗中傷もリスキーシフトが引き起こす影響といえるでしょう。

実際、個人では「誹謗中傷はいけない」とわかっていても、それが集団になって、それを過激な発言で加速させる人間がいると、全員が人を傷つけることを厭わなくなってしまうわけです。

また、SNSは匿名性が高いことから個人の責任の所在が曖昧になるため、「誹謗中傷をしても自分が誰だかバレない(からいいや)」という感覚が誹謗中傷を増長させます。

インターネットが普及した現代の日常に潜むよくありがちなリスキーシフトなので、十分に注意を払いましょう。

リスキーシフトの具体例#2
戦争やテロ

一人ひとりが「よくない」「争いで悲劇を起こしてはならない」と思っているはずなのに、今もなお、世界のどこかで戦争やテロが起きているのは、まさにリスキーシフトです。

例えば、「極端な言動」として「自国を守っていくために他国を蹴落とすしかない」という過激派がいたとしたら、その過激な意見が国家という集団内で注目されるようになります。

そして、当初は戦争に否定的だった議論も、こうした極端な意見によって次第に傾き、戦争という極論に陥るわけです。

認知バイアスを緩和するポイント

認知バイアスの原因は「経験や直感からくる思い込み」にあるので、対処すれば、一定は軽減できます。※人間である以上、全てを防ぐのは不可能です。

認知バイアスを緩和するポイント
  • 認知バイアスへの理解を深める
  • 認知バイアス診断で思考の癖を知る
  • 批判的に考え、第三者の意見を取り入れる

認知バイアスを緩和するポイント①
認知バイアスへの理解を深める

まず、認知バイアスの存在を知らなければ、防ぎようがありません。あなたが人間である限り『なにかしらのバイアスが少なからず働いている』という認識を持つところから始めましょう。

例えば、データ分析からアクションを検討する場合においては、下記のポイントを意識して、合理的に読み解く必要があるので、注意をしたいところです。

  • 確証バイアス
    自身の仮説を支持する都合良い情報ばかり集めていないか
  • 生存バイアス
    サンプリング対象に失敗事例は含まれているか
  • サンプリングバイアス
    サンプル対象が特定の属性に偏っていないか
  • 錯誤相関
    データ同士の相関性から間違えた因果関係を見出していないか

ちなみに「自分は大丈夫」「今回のケースは大丈夫」と思うのであれば、それもバイアスです。(楽観バイアスや正常性バイアスなど)。

ソクラテスの哲学「無知の知」にあるように、理解したつもりにならず、謙虚に向き合い、今後の学びに繋げていきましょう。

認知バイアスを緩和するポイント②
認知バイアス診断で思考の癖を知る

次は、自身が「どういったバイアスを持ちやすいのか」という思考の癖を知ることをおすすめします。簡易的なものであれば、無料アプリの「ミイダス」で診断可能です。

▼ミイダスで診断してみよう

引用:バイアス診断ゲーム(ミイダス)

ミイダスはもともと、転職市場価値を診断できるアプリですが、「バイアス診断ゲーム」をはじめとした心理学系の診断がいくつかあります。数分の診断で結果がわかるので、興味があれば試してみてください。

認知バイアスを緩和するポイント③
批判的に考え、第三者の意見を取り入れる

認知バイアスに陥るのを防ぐために「なにごとも疑ってかかる」「自分と異なる意見を取り入れる」ことが重要です。 例えば以下のようにですね。

  • 何が事実で、何が解釈か
  • 別の観点から考えると、解釈は変わるか
  • どのような反対意見があるか

このように、さまざまな角度から複眼的にとらえることができれば、認知バイアスに陥りにくくはなります。いわゆるクリティカルシンキング(批判的思考)ですね。

第三者の意見を取り入れるのもおすすめです。利害関係がなく、都合が悪いことも率直に伝えてくれる相手にしましょう。自身と違った境遇・価値観を持つ方であればあるほど、視野が広がります。

他の認知バイアス【一覧と具体例】

認知バイアスとは『様々な理由で認識が歪んでしまい、事実を正しく認識できずに不合理な(事実でない)認知をしてしまう傾向』を総称したもので、いくつもの種類があります。

認知バイアス説明・具体例
正常性バイアス自分に都合が悪い事実を信じない、現実を見ない
例:連帯保証人になったら友達が音信不通に。でもきっと大丈夫!
確証バイアス自分の信念を裏付ける情報を探し求め、それ以外を見ない
例:大好きな彼氏はココが良い!ココも素敵!
生存バイアス現在、生存している事例(成功例)しか見ない
例:成功した起業家を分析して、失敗例を見ない
後知恵バイアス過去の事象に「それは予測可能だった」と勘違い
例:そのじゃんけん、チョキなら勝てるってわかったよね?
自己奉仕バイアス自身に好意的な認識を持ちやすい傾向がある
例:成功は自分の能力が高いおかげ。失敗は外部環境のせい
自己中心性バイアス自分を基準に、他者の心情や認知を推察する
例:自分の価値観を押し付ける、相手目線で考えられない
感情バイアス感情的な好き嫌いが意思決定に影響を与える
例:性能は悪いが、つい好きなブランド商品を買ってしまう
投影バイアス自分の好み、感情、価値観を他人に投影して認識する
例:まわりの人も自分と同じ意見、感情だと思い込む
一貫性バイアス他者の1行動に一貫性があると思い込む
例:さっきナンパしてきた人、絶対いろんな女子に声かけてるよね
保守性バイアス新しい情報を取り入れて、考え方や行動を変えることに躊躇する
例:革新的な新技術が出ても、使わず、従来のやり方に固執する
バーナム効果曖昧な特徴でも、自分に強く該当すると思い込む効果
例:占い師「あなたは◯◯な人間ですね」→そうかも!
ハロー効果ある事象への評価が、他の目立った特徴に引っ張られる効果
例:清潔感がない人は、仕事もできなさそうだし性格も悪そう
ダニングクルーガー効果能力の低い人ほど自分を高く評価しやすい心理効果
例:もうこのゲームはコツ掴んだな!オレ最強かも!
コンコルド効果過去の投資を惜しんで、追加投資をやめられない効果
例:UFOキャッチャーを取れるまでやってしまう
バンドワゴン効果多くの人々が支持する意見や行動に信頼感を抱く効果
例:子どもが、他のみんなと同じオモチャを欲しがる
フレーミング効果同じ情報でも伝え方によって受け取り方が異なる効果
例:電池残量が「残り50%もある」と「残り50%しかない…」
アンカリング効果最初に提示した情報が基準となり、その後の認識に影響を与える効果
例:商品の値下げ(大きく下がっているとお得に感じますよね?)
アンダードッグ効果不利な立場の負け犬を同情・応援したくなる効果
例:バレンタインに縁がなさそうな人にチョコをあげたくなる
クレショフ効果2枚の関係ない写真に、意味的な繋がりを感じる効果
例:「野菜」「不機嫌な人の顔」→野菜が嫌い?
バックファイア効果信念に反する情報を提示すると、裏目になる効果
例:大好きな彼氏を批判されると、かえって愛情が増す、守る
真理の錯誤効果繰り返された情報を真実だと思い込む効果
例:「最高品質」と効果を連呼するTVCMを繰り返しみて信じる
リスキーシフト集団の中だと、よりリスクの高い意思決定をしやすくなる効果
例:赤信号、みんなで渡れば怖くない
錯誤相関二つの事柄に、相関関係があると錯誤(思い違い)すること
例:雨男/雨女、アイスの売上と溺死数
根本的な帰属の誤り他人の行動の場合、外部要因を過小評価してしまう傾向
例:遅刻の原因で、状況要因を考慮しにくい(性格のせいにしがち)
アロンソンの不貞の法則知らない人からの褒め言葉を、より嬉しく感じる法則
例:家族よりも、他人から認められると嬉しい
代表性ヒューリスティックある対象の判断を、既知概念の代表的特性との類似性で判断する
例:「尻尾が丸い動物」→「うさぎかな?」
可用性ヒューリスティックある判断をするとき、すぐに思い出せる事例や情報から判断しやすい
例:馴染みのものや、人気ブランド、記憶に浮かぶ商品を選びがち。
選択のパラドックス選択肢が多ければ多いほど不満を感じやすくなる
例:レストランのメニュー、料金プランの種類など
認知バイアス一覧表(全28件)

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