睡眠障害とは|睡眠にまつわる問題の種類やDSM-5による診断基準を解説

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長谷川
長谷川
国立大学卒業後、メンタルヘルス関連の専門的心理相談業務に従事。臨床心理学関連の論文執筆歴多数(保有資格:臨床心理士、公認心理士)

睡眠障害とは

睡眠にまつわる何らかの問題がある状態を「睡眠障害」といいます。

睡眠は日中の活動には密接なつながりがあり、睡眠に不具合があると、日中に症状が出現します。その症状が日常生活などに顕著な支障をもたらしている場合、「睡眠障害」と診断される可能性があります。

「睡眠障害」と聞くと不眠のイメージが強いかもしれませんが、「睡眠障害」は睡眠や日中の覚醒にまつわる病気の総称です。昼間眠くて仕方ないことを特徴とするもの、睡眠中に意思とは関係ない運動や行動が現れるものなど、不眠以外を特徴とするものがあります。

引用:眠りの種類 ~レムとノンレム~

正常な睡眠のリズム

個人差はありますが、おおよそ7~8時間が、体にとって自然な睡眠時間です。こうした規則正しい睡眠リズムは、疲労による「睡眠欲求」と体内時計に指示された「覚醒力」のバランスによって形成されます。

睡眠のメカニズムはまだわかってないことが多くありますが、私たちの体は、健やかな睡眠を維持するために、自律神経やホルモンなどのさまざまな生体機能を総動員されていることが知られています。

通常、入眠するとまず、「ノンレム睡眠」という深い眠りに突入し、1時間ほどで徐々に眠りが浅くなって、「レム睡眠」という体は寝ていて脳だけが起きている睡眠へと移行していきます。その後は約90分の周期でノンレム睡眠とレム睡眠を繰り返します。繰り返す度にノンレム睡眠の深さは浅くなり、次第に覚醒に向けた準備が整っていきます。

睡眠の周期は日によって変動し、個人差もあります。前日の睡眠が不足していると、最初のノンレム睡眠が長くなる傾向にあることが知られています。

レム睡眠

体は眠っているけれど、脳は起きている睡眠の状態です。レム睡眠の特徴は、急速眼球運動(Rapid Eye Movement)が現れることで、その頭文字をとってレム(REM)睡眠と呼ばれています。

寝ている人の顔を見ていると、まぶたがピクピクと動いている時間が出現します。これは眼球がキョロキョロと動いているためです。

レム睡眠時の脳波は覚醒しているときの脳波と似ており、大脳皮質は覚醒時よりもむしろ強く活動しています。

大脳皮質は随意運動(自分の意識や意思に基づく運動)などを司っているため、脳から筋肉まで指令が言ってしまわないように、眼球運動にかかわるもの以外は途中で情報伝達が遮断されるようになっています。この遮断がうまくいかないと、寝ているのに体が激しく動くという事態になってしまいます。

ノンレム睡眠

急速眼球運動(REM)が生じない睡眠です。レム睡眠時に活発だった大脳皮質もスリープモードに入っている、深い睡眠状態と言えます。

筋肉活動は完全休止こそしていないものの、血圧や体温が少し下がり、呼吸や脈拍も緩やかになります。

睡眠が深いため、軽く体を揺さぶられても目が覚めません。ノンレム睡眠中に強制的に起こされても、大脳皮質がスリープモードから覚醒するのに少し時間がかかるため、すぐには活動を開始することはできません。いわゆる“ねぼけ”はこの状態です。

通常、10~20分程度の日中の居眠りにはノンレム睡眠状態となります。少しの時間でも頭がスッキリするのは、脳と体が同時に休まるためと考えられています。

睡眠障害の種類と診断基準(DSM-5)

ここでは、睡眠障害の診断基準についてDSM-5を意訳しつつ引用していきます。ほとんどの方はDSM-5をご存知ないと思いますので、最初に簡単に説明しますね。

診断基準となる「DSM-5」とは

DSM-5とは、アメリカ精神医学会発刊の『Diagnosis and Statics Manual of Mental Disorders(精神疾患の診断・統計マニュアル)』の第5刷を略したものです。

未知の部分が多い精神疾患や精神障害について、ほとんどの精神科医が、この「DSM-5」をスタンダードとして、診療や研究にあたっています。

睡眠障害について記載があるのは、第12章「睡眠―覚醒障害群(Sleep-Wake Disorders)」です。

睡眠障害の種類
  • 代表的な睡眠障害
    • 不眠障害
    • 過眠障害
    • ナルコレプシー
  • 睡眠時の呼吸に関連する障害
    • 閉塞性睡眠時無呼吸低呼吸
    • 中枢性睡眠時無呼吸
    • 睡眠関連低換気
  • 睡眠時の異常行動や不随意運動に関する障害
    • 概日リズム睡眠―覚醒障害
    • ノンレム睡眠からの覚醒障害
    • 悪夢障害
    • レム睡眠行動障害
    • レストレスレッグス症候群(むずむず足症候群)

それぞれ具体的に説明していきます。

不眠障害(Insomnia Disorder)

「不眠障害」とは、睡眠の開始や維持が困難だという訴えを伴う、睡眠の量と質に関する不満足感を特徴とする睡眠障害です。

下記で紹介する基準A~Eのように、一般的な眠りにくさとは異なる、明らかな睡眠の困難があります。

A. 睡眠の量または質の不満に関する顕著な訴えが、以下の(1)~(3)のうち1つ以上を伴っている
(1)入眠困難
(2)睡眠維持の困難(何度も目が覚める、または、一度覚醒した後にもう一度眠ることができない)
(3)早朝覚醒(必要以上に早く起きてしまい、その後もう一度眠ることができない)
B. 基準Aのような睡眠にまつわる困難は、著しい精神的・心理的苦痛を与えているか、あるいは社会生活・職業生活などの日常生活に顕著な支障を与えている
C. 基準Aのような睡眠にまつわる困難は、少なくとも1週間に3夜以上生じている
D. 基準Aのような睡眠にまつわる困難は、少なくとも3ヶ月以上続いている
E. 基準Aのような睡眠にまつわる困難は、適切な睡眠の機会があるにもかかわらず起こっている
F. その不眠は、他の睡眠―覚醒障害では十分に説明できず、他の睡眠―覚醒障害の経過のなかだけで起こるものでもない
G. 薬物乱用や薬の副作用、他の疾患の生理的作用から直接的影響を受けていない
H. その不眠についての訴えは、併存する他の精神疾患(統合失調症、うつ病など)および医学的疾患としては十分に説明できない

このように、不眠障害は夜間の睡眠困難だけではなく、日中の活動にも支障をもたらします。例えば、疲労感、注意や集中、記憶の困難、怒りやすくなる、などです。

人は加齢に伴って睡眠時間が短くなりますが、本人はよく眠れていると感じていることが通例です。本人による睡眠への不満感の訴えと実際の不眠の両方が揃っていなければ、睡眠障害には該当しません。

過眠障害(Hypersomnolence Disorder)

過眠障害とは、夜の睡眠の顕著な長さや無意識のうちに起こる日中の睡眠、覚醒状態の質の悪化、覚醒した後の活動力の低下などを特徴とする睡眠障害です。

入眠そのものには問題なく、眠りについてすぐに良好な睡眠状態に入ることができます。ただ、睡眠から覚醒への移行があいまいで、起床することが苦手です

起床しているにもかかわらず頭が混乱し、闘争的になったり、ろれつが回らなくなったりすることがあります。これを「睡眠慣性(睡眠酩酊)」と言います。

お酒を飲んでいないのに、酔っているかのような酩酊状態を呈するためです。日中、次第に眠気が増し、昼寝を必要とします。昼寝の時間は長くなりやすく、数分の人もいれば、数時間以上続く人もいます。昼寝の後は目覚めが悪く、起床時と同じような睡眠酩酊を呈することもあります。

A. 主な睡眠時間帯に7時間以上眠っているにもかかわらず、過剰な眠気の訴えがあり、以下の(1)~(3)のうち1つ以上の症状を伴っている
(1)同じ日のうちに、繰り返し睡眠に陥る
(2)1日9時間以上の長い睡眠があっても、覚醒後に回復感や爽快感がない
(3)急に覚醒した後、通常の覚醒状態を維持することが困難である
B. 基準Aのような過眠症状は、少なくとも1週間に3回以上あり、3ヶ月以上続いている
C. 基準Aのような過眠症状は、著しい精神的・心理的苦痛を与えているか、あるいは社会生活・職業生活などの日常生活に顕著な支障を与えている
D. その過眠は、他の睡眠―覚醒障害では十分に説明できず、他の睡眠―覚醒障害の経過のなかだけで起こるものでもない
E. 薬物乱用や薬の副作用、他の疾患の生理的作用から直接的影響を受けていない
F. その不眠についての訴えは、併存する他の精神疾患(統合失調症、うつ病など)および医学的疾患としては十分に説明できない

ナルコレプシー(Narcolepsy)

抑えがたい睡眠欲求、日中の睡眠発作、笑いや冗談によって引き起こされる情動脱力発作(体の一部の力が急に抜けてしまうこと)、入眠時幻覚(寝入りばなに出現する現実感の非常に高い鮮明な幻覚・悪夢)、睡眠麻痺(寝入りばなの金縛り)などを特徴とする睡眠障害です。ナルコレプシーを持つ人のほとんどは、脳脊髄液の中のヒポクレチン(オレキシン)の値が非常低く、ほとんど消失していることがわかっています。

日中に眠気が強いという点では過眠障害に似ていますが、情動脱力発作や入眠時幻覚の有無以外にも、いくつかの点ではっきり区別されます。過眠障害の人は時間経過のなかで徐々に眠気が強くなってうたた寝をしまいますが、ナルコレプシーの場合、眠気が徐々に強くなるような感覚はなく、うたた寝し始めた自覚はないことがほとんどです。

うたた寝に気づくのはうたた寝から目覚めた後で、自分で気づかない間に意識を失っていた、寝ていたのだろうか、と初めてわかるのが通例です。過眠症のうたた寝はノンレム睡眠が主体で睡眠酩酊が生じますが、ナルコレプシーのうたた寝はレム睡眠が主体です。

そのため、ちょっとした声かけですぐに目が覚め、覚醒後は爽快感を伴います。ただし、一度爽快感を得たにもかかわらず、時間を置かずに再び睡眠発作を起こしてしまうこともナルコレプシーに特徴的です。

通常、人は入眠するとノンレム睡眠に突入しますが、ナルコレプシーの場合、レム睡眠が出現します。入眠時幻覚や睡眠麻痺が起こりやすいのは、本来深い眠りに入るはずの寝入りばなに、脳が起きているノンレム睡眠を経験してしまっているためと考えられています。こうした特徴は、睡眠ポリグラフ検査によって調べることができます。

ナルコレプシーの睡眠発作は、その人にとって楽しい時間(楽しみにしていた映画を見ているときなど)、重要な時間(失敗の許されないプレゼンテーション時など)、命にかかわる危険が伴う場面(横断歩道を渡っているときなど)にも生じます。

睡眠発作は自分で事前に察知して防ぐことができないため、治療により睡眠発作が適切にコントロールされるようになるまで、車の運転や高所での作業は禁忌です。バスの運転手、パイロットなどの危険を伴う職業は避けなければいけません。

A. 抑えがたい睡眠欲求や睡眠発作が同じ1日の間に生じる状態が、過去3ヶ月にわたって、少なくとも週に3回以上ある
B. 次の(1)~(3)のうち、1つ以上にあてはまる
(1)少なくとも月に数回以上、笑いや冗談を引き金とする情動脱力発作がある
※子どもの場合、発症から半年以内の場合は、明確な引き金がないこともある
(2)脳脊髄液内のヒポクレチン(オレキシン)の数値が通常の3/1(110pg/ml)以下
(3)夜間の睡眠ポリグラフ検査で入眠から15分以内にレム睡眠が生じており、日中の検査ではうたた寝時にレム睡眠が2回以上認められ、睡眠発作によるうたた寝の持続時間は8分以下である

閉塞性睡眠時無呼吸低呼吸(Obstructive Sleep Apnea Hypopnea)

呼吸に関連する睡眠障害の中では最もよく見られるもので、睡眠中に気道の閉塞による無呼吸と低呼吸を繰り返すことを特徴とします。無呼吸や低呼吸は、成人の場合、10秒以上続きます。

このために血中の酸素濃度は低下し、ノンレム睡眠時の睡眠が通常よりも浅くなりやすい傾向にあります。中心的な症状は、睡眠時のいびきと日中の眠気です。

睡眠1時間あたりの無呼吸・低呼吸が15回以下ならば軽度、15~30回で中等度、30回以上ならば重度と考えられています。

A. 以下の(1)(2)のいずれかにあてはまる
(1)睡眠ポリグラフ検査において、睡眠1時間あたり5回以上の閉塞性無呼吸および低呼吸が認められることに加え、睡眠時に次の(a)(b)いずれかにあてはまる症状がある
(a)夜間の呼吸障害(いびき、鼻鳴らし、喘ぎ、呼吸停止)
(b)日中の眠気や疲労感があり、睡眠をとる機会が十分にあったにもかかわらず睡眠後の回復感がなく、これらの症状は他の精神疾患や医学的疾患としては十分に説明できない
(2)睡眠ポリグラフ検査において、睡眠1時間あたり15回以上の閉塞性無呼吸および低呼吸が認められる

中枢性睡眠時無呼吸(Central Sleep Apnea)

稀な病気です。睡眠時の気道の閉塞ではなく、中枢神経の異常により喚起(呼吸)制御の不具合によって無呼吸が生じます。

A. 睡眠ポリグラフ検査において、睡眠1時間あたり5回以上の中枢性無呼吸が認められる呼吸が認められる
B. 基準Aのような症状は、現在認められている他の睡眠障害ではうまく説明できない

睡眠関連低換気(Sleep-Related Hypoventilation)

成人に見られることは極めて稀な病気です。単独で出現することもありますが、ほとんどは医学的・神経学的疾患や医薬品使用による副作用、物質使用障害(お酒や覚醒剤などの濫用)に併存して見つかります。極度の肥満によって出現することもあります。

A. 睡眠ポリグラフ検査において、二酸化炭素値上昇と関連する呼吸減少が認められる
B. 基準Aのような症状は、現在認められている他の睡眠障害ではうまく説明できない

概日リズム睡眠―覚醒障害(群)(Circadian Rhythm Sleep-Wake Disorder(s))

人の体内時計の周期は約25時間です。私たちの生活は、地球の周期に基づいて1日24時間で行われており、体内時計はこれと約1時間ずれていることになります。

体内にはこのずれを修正するメカニズムがあるのですが、ずれを修正できず、睡眠―覚醒リズムが乱れてしまうことがあります。これによって生じるのが、概日リズム睡眠―覚醒障害です。

A. 体内時計の変化、あるいは、体内時計とその人の置かれている環境や社会的・職業的スケジュールから要求される睡眠―覚醒スケジュールの不具合によって、睡眠が分断されてしまっている
B. 基準Aのような睡眠の分断は、過剰な眠気または不眠、あるいはその両者をもたらしている
C. 基準Aのような睡眠の分断は、著しい精神的・心理的苦痛を与えているか、あるいは社会生活・職業生活などの日常生活に顕著な支障を与えている

この概日リズム睡眠―覚醒障害には、5つの下位分類があります。

睡眠相後退型

実際の睡眠時間帯が、希望する睡眠時間帯よりも2時間以上遅れていて、不眠や過剰な眠気がある場合です。覚醒困難がよく見られます。

睡眠相前進型

実際の睡眠時間帯が、希望する睡眠時間帯よりも2時間以上早くなっていて、早朝の覚醒と日中の過剰な眠気がある場合です。同じ家族や家系で複数人の患者がいる例が多く報告されています。家族性を伴う場合、発症時期が早く、年齢とともに重症化する傾向にあります。

不規則睡眠―覚醒型

夜間の不眠と日中の過剰な眠気・居眠りがある場合です。1日で最も長く眠れるのは午前2時~6時にかけての4時間未満で、1日の間に何度も細切れの睡眠が見られます。認知症や子どもの発達障害と関連することが多いと言われています。

非24時間睡眠―覚醒型

光知覚が低下している視覚障害者に見られやすく、視覚に障害がない場合にはひきこもりなどで光を浴びる機会が少ない人によく見られます。24時間の明暗の周期と体内時計とがちぐはぐになるために生じると考えられています。典型的には、不眠、過剰な眠気があります。体内時計が徐々にずれ、昼夜逆転のようになることもしばしばです。

交代勤務型

通常の午前8時から午後6時までの日中の時間枠以外(特に夜間)に、規則的なスケジュール(シフト制)で行われる業務に従事していることで生じます。勤務中の過剰な眠気と自宅で過ごす時間での過眠の両方が見られます。

ノンレム睡眠からの覚醒障害(Non-Rapid Eye Movement Sleep Arousal Disorders)

全体の睡眠時間の前半3分の1の間に生じているノンレム睡眠中に不完全な覚醒状態が生じてしまう睡眠障害です。

不完全ではあるものの覚醒しており、典型的には目を開いているため、周囲からはまるで起きているかのように見えます。子どもが寝ているときに急に叫び出す「夜驚(やきょう)」もここに含まれます。

不完全な覚醒状態で起こす行動には、全く意識がなくて後で他者から聞かされてわかるものもあれば、なんとなく意識はあるが体が言うことをきいてくれなかった記憶があるようなものもあります。

A. 全体の睡眠時間の前半3分の1の間に、睡眠から不完全に覚醒するエピソードが複数出現し、それが以下の(1)(2)のいずれかの症状を伴う
(1)睡眠時遊行(睡眠時にベッドから体を起こしてキョロキョロする、ベッドから起き上がって立ち歩く、ものを食べる、性的な行動をとるなど)
(2)睡眠時驚愕(恐怖の叫び声や泣き声をあげるなど)
B. 夢の映像は、全く、もしくは少ししか想起されない
C. 不完全な覚醒状態での言動についての健忘がある
E. 薬物乱用や薬の副作用、他の疾患の生理的作用から直接的影響を受けていない
F. その不完全な覚醒状態での言動は、併存する他の精神疾患(統合失調症、うつ病など)および医学的疾患としては十分に説明できない

悪夢障害(Nightmare Disorder)

不安、恐怖、その他の不快感情を引き起こす延々と続く物語風の夢をありありと見てしまうことを特徴とする睡眠障害です。

3~6歳頃に始まることが多く、20歳前後に有病率と重症度が頂点に達します。頻繁に悪夢を見る人は、希死念慮や自殺企図の危険性が高いことが知られています。ノンレム睡眠からの覚醒障害とは異なり、典型的にはレム睡眠下で悪夢を見るため、悪夢による覚醒後の意識は鮮明です。

A. 長引いた非常に不快な、詳細に想起できる夢を繰り返し見ており、その夢の内容は、生存や安全への脅威を回避しようとする内容を含む
B. 基準Aのような悪夢から覚めた後、すぐに意識がはっきりする
C. 基準Aのような悪夢は、著しい精神的・心理的苦痛を与えているか、あるいは社会生活・職業生活などの日常生活に顕著な支障を与えている
D. 薬物乱用や薬の副作用、他の疾患の生理的作用から直接的影響を受けていない
E. 基準Aのような悪夢は、併存する他の精神疾患(統合失調症など)および医学的疾患としては十分に説明できない

レム睡眠行動障害(Rapid Eye Movement Sleep behavior Disorder)

レム睡眠下で発生したり複雑な運動を行ったりした後にレム睡眠から覚醒することを特徴とする睡眠障害です。レム睡眠下では、本来は眼球を動かす筋肉以外の筋肉は弛緩して動かなくなっているはずですが、筋肉が弛緩せず、寝たまま行動を起こしてしまいます。

ノンレム睡眠からの覚醒障害と異なり、典型的には目をつぶったまま言動を起こします。言動は、何かからの攻撃や脅威から逃げているような、過剰に暴力的な夢に対する反応であることが通例です。レム睡眠行動障害になる人は、50歳以上の男性が圧倒的に多いとの報告があります。

A. 睡眠中に発声および/または複雑な運動行動を示した後に覚醒することが度々ある
B. 基準Aのような睡眠中の言動は、レム睡眠中に生じる
C. 基準Aのような睡眠中の言動後に覚醒するとき、本人は完全に覚醒しており、意識もはっきりしている
D. 次の(1)(2)のいずれかにあてはまる
(1)睡眠ポリグラフ検査で、レム睡眠下に筋肉の緊張が消失しない状態が認められる
(2)レム睡眠行動障害を示唆する既往がある
E. 基準Aのような睡眠中の言動は、著しい精神的・心理的苦痛を与えているか、あるいは社会生活・職業生活などの日常生活に顕著な支障を与えている
F. 薬物乱用や薬の副作用、他の疾患の生理的作用から直接的影響を受けていない
G. 基準Aのような睡眠中の言動は、併存する他の精神疾患(統合失調症など)および医学的疾患としては十分に説明できない

レストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群)(Restless Legs Syndrome)

脚の内部に不快な異常感覚に伴って、腕や脚を動かしたいという欲求が生じることを特徴とする睡眠障害です。異常感覚は神経性で、「むずむずする」「虫が這うよう」「ほてるよう」などと、落ち着かない気持ちとともに訴えられます。

こうした症状は夕方から夜間にかけて酷く、体を動かすことで少し緩和されます。そのため、眠るためにじっとしていることが困難となり、結果的に、入眠困難や中途覚醒などを引き起こし、まとまった質のいい睡眠をとることができなくなってしまいます。

A. 脚を動かしたいという強い欲求は、通常、落ち着かない不快な下肢の感覚を伴い、以下の(1)~(3)のすべてがあてはまる
(1)脚を動かしたいという欲求は、じっとしているときやあまり体を動かしていないときに始まるか、ひどくなる
(2)脚を動かしたいという欲求は、運動することで、部分的あるいは完全に改善する
(3)脚を動かしたいという欲求は、日中より夕方または夜間にひどくなるか、または、夕方または夜間にしか生じない
B. 基準Aのような不快な下肢の感覚を伴う欲求は、週に3回以上生じる状態が3ヶ月以上続いている
C. 基準Aのような不快な下肢の感覚に伴う欲求は、著しい精神的・心理的苦痛を与えているか、あるいは社会生活・職業生活などの日常生活に顕著な支障を与えている
D. 基準Aのような不快な下肢の感覚に伴う欲求は、他の精神疾患(統合失調症、うつ病など)および医学的疾患としては十分に説明できない
E. 基準Aのような不快な下肢の感覚に伴う欲求は、薬物乱用や薬の副作用、他の疾患の生理的作用から直接的影響を受けていない

睡眠障害の代表的な治療方法

睡眠障害は種類によって治療法が異なります。また、睡眠時の状態は自分ではわからないことが多いため、睡眠ポリグラフ検査など、客観的な評価に基づいた適切な診断を受けることが、治療の第一歩となります。

睡眠障害への薬物治療

不眠症状には睡眠導入剤、過眠症状には中枢系精神刺激薬、むずむず脚症候群では抗てんかん薬や抗パーキンソン病薬が用いられることが一般的です。症状によって、抗うつ薬、抗不安薬、抗精神病薬なども使用されることがあります。医師にしっかりと症状等を話し、指示された用法や用量を守って正しく服用することが大切です。

睡眠導入剤は、お酒と一緒に飲んではいけません。寝酒との併用は絶対にやめる必要があります。睡眠導入剤は寝る準備をしてから服用し、服用後30分以内にはベッドで横になっていることようにします。

睡眠習慣の見直し

睡眠習慣を見直し、規則正しい睡眠生活を送ることは、その睡眠障害の改善にとっても非常に重要です。特に不眠障害や概日リズム睡眠―覚醒障害などは、生理学的な覚醒と睡眠を妨害する習慣から大きく影響を受けることが知られており、睡眠習慣の修正だけでも、一定の症状改善を見込むことができます。

正しい睡眠習慣によるセルフケア

正しい睡眠習慣をつけるには、平日と休日に大きな区別をつけず、毎日一度は同じ時刻に起こることが大切です。“寝だめ”や“睡眠貯金”はできません。休日だから寝たい、という場合は、夜の睡眠に影響しない程度に昼寝をします。一般的には、15時前の昼寝が推奨されています。

体内時計のずれを修正するには、朝の光が最も有効です。朝起きたら、まずは陽の光を浴びるようにしましょう。また、夜遅くまで白色の光を浴びていると、体が夜のモードに入りにくくなってしまいます。最近は調光できる室内電灯も増えていますから、夕方から夜にかけてはあたたかみのあるオレンジに調光することがおすすめです。

ベッドに入るタイミングも大切です。まだ眠るつもりがないのにベッドに入ってなにか作業をしていると、“ベッドに入る=睡眠”という図式を体が忘れてしまいます。眠気を催してからベッドに入り、ベッドに入ったら寝ること以外は何もしないようにします。不眠症状が出ていると、ベッドに入った後も“眠れないな”と思いつつ長時間ベッドに居続けてしまうことがあります。これは逆効果です。“眠れないな”と思ったら、いつもの就寝時間にこだわらず、一度ベッドを出ましょう。人は、睡眠なしには生きていけません。眠ることにこだわらず、自然体になることで、かえって自然な睡眠リズムを取り戻されていくのです。

日中の活動による適度な疲労も、自然な睡眠をうながしてくれます。できれば日中は外に出て陽の光を浴びながら活動したいところですが、それが難しい場合には、家の中でできるストレッチなどで少し体を動かしてみることが有効です。

さいごに

睡眠にまつわる病気には、ストレスや心の悩みよりも、生理学的・神経学的な要因によるものが少なくありません。本人だけで睡眠中の症状に気づくことは難しいため、気になる症状があれば、早めに専門医を訪ね、検査を受けてみることが大切です。

本人が主に不眠症状で悩んでいる場合は、眠らなければと思うことでますます眠れなくなってしまいますから、眠るための対策に奔走させてしまわないように気をつけましょう。眠くなったときに寝るのが大切です。

本人が過眠症状や日中の過剰な眠気に苦しんでいるときは、それは怠けではなく、体からがSOSを発して睡眠を求めているのだと理解することが必要です。眠気を我慢させるよりもむしろ、時間を区切った仮眠をすすめることが有益です。